「毎年恒例の誕生日会兼クリスマスパーティ−が開けないなんて・・・」
「友達をそんな邪険にすること無いのに」
「所詮女の友情なんて彼氏が出来たら消えてしまうものなんだわ」
「竹内さんがそんな人だったなんて・・・」
「もう、なんでみんなそんな意地悪言うのよ〜。菫さんまで」
今年もあと2週間と迫った日曜日、私竹内麻巳とかつての同級生達は私の父が経営する喫茶店やどりぎに集まっていた。

「まぁいいわよ。私達は別の場所で悲しく女だけのパーティーやるから。竹内は上倉先生とあつ〜い聖夜をお過ごし下さい」
「楓子〜」
『あはははは』
静かな店内に女子大生の笑い声が響き渡る。
たまたま他に客がいないからいいようなものの、静かさを楽しむ喫茶店としては異様な光景だ。

「それで、それで竹内は上倉先生へのクリスマスプレゼントに何を用意したの?」
「あ、うん。手編みのマフラーなんだけど、喜んでくれるかな〜」
「おお、地味ながらも手作りってところが男心をくすぐるね」
「地味で悪かったわね」
初めての編み物ということもあって、練習期間とかで秋の始めくらいから少しずつやり始めていた。
正直残暑の残る時期からクリスマスのことを考えるのもどうかと思ったが、早めに始めて困ることは無い。
さすがに余裕を見過ぎたせいか、既に完成している。それどころかロングマフラーになっていた。
あの人にロングマフラーはあんまり似合いそうにないけど、などと考えたが今更もう遅い。
喜んでくれるかな・・・

「って、何?何でみんな私の顔を見てニヤニヤしてるの?」
気付くとみんなが私の顔を覗き込んでいる。そして芝居掛かった演技を始めた。

「先生、私のプレゼント喜んでくれるかな〜」
「麻巳、お前が最高のプレゼントさ」
「先生!ガシッ・・・ってな感じ?」
「そんなこと想像してないわよ!」
まぁ最初は当たってるけど・・・

「恋する乙女の目よねぇ」
「はぁ、私も彼氏作ろっかな〜」
「楓子アテあるの?」
「ううん。全然。竹内はいいよね〜。何だかんだで上倉先生ってカッコ良いし、卒業間近なんて情熱に溢れてたし」
「元から上倉先生って人気あったもんね。学校で若い子に取られるかもよ?」
「若い子って・・・せいぜい3つしか違わないじゃない」
む〜、でもそう言われるとちょっと不安になって来た。何だかんだで上倉先生はモテる。
以前一度先生が告白されてるのを見た時は目を疑ったものだが、今ならその子の気持ちも分かるのがちょっと悔しい。
信じてていいんですよね、浩樹さん・・・




浩樹side
「ぶぇっくし!」
「あらあら上倉先生、風邪ですか?」
「いえ、そんなことは無いと思うんですが。すみません」
「それでは噂話でしょうか?良い噂だといいですね」
「教師の噂なんかにロクなもんは無いと思いますけどね〜」
まぁ噂をしてるのが生徒とは限らないが。
そんなことを思いながら、代理では無くなった理事長と何の話をしてたっけ?と考える。

「それでダンスパーティーのことなのですけど」
「ああ、はい」
そういやその話だった。
今年のクリスマスパーティーはダンスパーティー付きなのだ。
その為に教師も来週の放課後から練習が始まる。
正直オレは踊るつもりなんてサラサラ無いので、仮病を使って休もうかと考えているくらいだが。

「上倉先生はダンスお得意ですか?」
「いえ、全く経験がありません。ちょっと練習したところで上手くならないでしょうし、当日は隅でジッとしておきますよ」
「あら、そんなことはありませんわ。練習すれば短期間でもちゃんと身につくものです」
「そうは思いますが・・・。女子は先月から体育で練習してるんですよね?それに比べるとどうしても」
ちなみに男子は自分で練習しろ、とは男の体育教師の弁である。まぁ教えられないのが正直なところだろうが。
女子と踊れる機会となれば自主的に練習してる奴も多いだろう。男が部屋で一人で練習など、想像すると非常に滑稽だ。

「ふふ、上手下手なんて余り関係ありませんわ。雰囲気を楽しめればいいんですもの」
「そういうものでしょうか?」
「ええ」
理事長は思わず見惚れそうになる満面の笑みでオレの問いにそう答えた。

「でも今年の24日は日曜日ですし、生徒が参加してくれるかどうか不安ですわ」
「いえいえ。あれだけの豪華な料理も並ぶわけですし、余程のことが無い限りほとんどの生徒が出席しますよ」
あんな豪勢な料理が出るというのに、家族とクリスマスイブを過ごす奴はそうそういないだろ。
それに何だかんだで学校なので時間は早い。最後まで参加して帰っても家族とケーキ、なんてことも普通に出来る。
カップルなんかは別に店を予約するかも知れないが、学生だしカップルでもこっちに参加ってのが多いだろう。
って、そういや店だよ。すっかり忘れてた。

「どうしたもんか・・・」
「?どうかなされたんですか?」
「あ、いえいえ。何でもありません。では、まだ部活がありますのでこれで」
「はい。頑張って下さいね」
「失礼します」
去年は誕生日おめでとう、と言ったのが日付変わってからだったから今年こそは、と意気込んでいたのだが。
クリスマスの予約はすぐ埋まるんだよな・・・。何しろクリスマスデートなんて久しぶりだったからすっかり忘れてた。
良さそうな店はすでに埋まってるし、本当にどうしたもんか。




麻巳side
「ダンスパーティー?」
「そうなんです!理事長の発案で採用されて、今学期の最初の方から体育で週1時間練習してるんですよ」
「へぇ〜、それは面白そうね」
「楽しそうで良いですね」
クリスマスイブまであと3日。私と菫さん、田丸さん、萩野さんはまた私の家でもある喫茶店に集まっていた。
それにしてもダンスパーティーなんて初耳だ。浩樹さんは当然知ってるハズなのに私は知らない。
先週会った時にも、昨日電話した時にも何も言って無かったけど・・・・・・

「朋ちゃんなんか今年に入ってモテモテなんで、何人に声掛けられるか分かんないんですよ〜」
「私は相手見付かりそうにないですけどね・・・」
「そんなことないって!ひかりちゃん可愛いし、絶対声掛けられるよ」
萩野さんの言う通り田丸さんも十分可愛い部類だ。

「そうですよ、自信を持って下さい」
「そうそう。田丸さんはもう少し自分に自信を持った方がいいわよ?」
「部長・・・」
「部長はあなたでしょ。もう1年近くも経つのに何言ってるの」
私は苦笑しながら1年前のことを思い出す。もうあれから1年近く経とうとしているのか、と。

「それにしてもセンセー酷いんだよ?『相手が踊り難くて大変だろ、萩野』とかいうんだもん」
「相変わらずですね、上倉先生は」
「全く。生徒を身体的特徴であげつらうなって前も言ったのに」
「あ、上倉先生と言えば先生も引く手数多かも知れませんね」
田丸さんがそんなことを言うので、私は日曜日の楓子達の会話を思い出してしまった。

「そうだよね〜。前からクールキャラってことで人気あったけど、最近は優しい上に目が輝いてるもんね」
「私この前先生が告白されてるの見たんですよ。しかも結構可愛い娘に」
「田丸さん」
「あ。その・・・すみません」
菫さんが田丸さんを嗜める。私に気を利かしてくれたのだろう。

「や、やだな〜。別に何とも思ってないわよ?むしろ自分の彼氏がモテモテだってことで鼻が高いくらいなんだから」
「そんなこと言っても、ミルクをお冷に入れてるのを見ると説得力ないですよ?」
「え?あ、これは・・・その・・・」
「こういう時は素直にヤキモチ妬いても良いと思いますよ?」
あ〜もう。菫さんに確信を突かれて気付かされる。私は本当に浩樹さんのことが大好きなのだと。




「ひかりちゃん。さっきの告白だけど、先生どういう断り方してたの?」
「先生が頭を下げて謝っていたので断ったのは確かだと思うんですけど、何て言ってお断りしたのかまでは・・・」
「そうだね〜。この場面だと小説家としては〜」
萩野さんが私に向かって怪しい笑みを浮かべる。そして

「ごめんよ。オレには心に決めた人がいるんだ、とか言ってたのかも」
『かも』
と萩野さんに合わせて菫さんと田丸さんが私の方を伺って来た。

「もう!からかわないでよ」
私は顔どころか耳まで真っ赤になっているのを感じていた。

「それで、麻巳先輩はどうするの?」
「へ?何のこと?」
「告白は断ってもダンスまではお断りしないと思いますよ」
「そうですね。せめてダンスくらいは思い出として持ちたい、なんて思う子がいるかも知れません。
愛しの先生が誰かと手と手を取り合って、ダンス踊ってても平気なんですか?」
い、愛しのって・・・

「菫さ〜ん!」
でも実際にそうだ。告白されたってだけでヤキモチ妬いてるのに、女生徒と手と手を取り合ってなんて考えたら・・・・・・

「ここはもう麻巳先輩が潜入してセンセーを独り占めにしてるしかないね」
もちろんセンセーに秘密で、と萩野さんは続けた。

「そんなこと出来るわけないでしょ!」
「大丈夫ですって。バレても怒られないですよ、仮にも桜花展銀賞受賞者なんですから」
「それは関係ないと思うんだけど・・・」
「せっかくですし私も一緒に行きましょうか?」
「だ、だから私は・・・」
こういう状態を四面楚歌というのだろうか?正確には三面だけど。

「本当にいいの〜?」
「いいんですか〜?」
「知らないですよ〜?」
「分かった!分かりました!行きます!これでいいんでしょ?」
もうどうとでもなれ、そんな気分で私は店の天井を仰いだ。




浩樹side
「まさか教師までダンスのレッスンがあるとはね〜」
「運動不足のあんたにはちょうどいいんじゃない?」
「悪かったな。だがダンスで手を繋いだだけで頬を染めてる桔梗先生には言われたくないけどな」
「なっ!それこそ悪かったわね!」
オレと霧はそんなことを言い合いながら、先ほどまで練習していた体育館から校舎へ続く渡り廊下を歩いていた。

「足が絡んでコケた人に言われたく無いわよ」
「ダンスなんてしたことある訳ねぇだろ!そもそも何でお前が出来るんだよ」
「授業で教えるんだから出来て当然でしょうが」
霧がダンスを教える光景など、実際に今日その講習を受けなければ一生想像することは出来なかっただろう。

「そういえばクリスマスはエリスちゃん帰って来るの?」
「いや、今年のクリスマスは向こうの祖母と過ごすみたいだ。大晦日までには帰って来るとは言ってたけどな」
フランスは休みが分散化していて、夏休み以外はそんなに長くは無いが帰って来ようと思えば帰って来れる。
ちなみに夏休みも帰って来てたけど、交通費のことを考えるとそんなに頻繁に帰って来られても困る、とは北海道にいる祖母の談だ。
まぁほとんどの旅費は撫子学園パリ理事長でもある、もう片方の祖母が負担してくれてるようだから、こちらには余り関係は無いのだけど。

「お祖母ちゃん孝行してるのね」
「全くオレとは大違いだ」
「そう思うならたまには帰りなさいよ。それじゃ私は着替えたらまた体育館に戻って部活に行くから、また明日ね」
「おう。さて、オレは・・・このままで問題ないな」
北海道まで戻るのも安くないんだよな〜。特に今年はプレゼントのせいで金が無いし。




「上倉先生」
美術室に行こうとしたところで後ろから声を掛けられた。

「ん?何だ美咲じゃないか。学校にいる時は制服着ないとダメだぞ」
「先生分かってて言ってますよね?」
「バレたか。んで、卒業した美咲がオレに何の用だ?」
「卒業したら用も無しに話しかけちゃいけないんですか?」
美咲にこんな返し方をされるとは。

「お前もわざと言ってるだろ」
「バレましたか。今日は上倉先生に会いに来たのがメインではなくて、理事長先生にお話があってここまで来たんです」
チロっと舌を出して笑った後に、美咲はオレの想像外のことを言った。

「理事長に?それこそ卒業した美咲が何で?」
「それはですね。カクカクシカジカ」
「なるほど!そう言うことだったのか!」
「先生、乗らないで下さい」
「全くネタを振るだけ振っておいて。それで本当に何の話だったんだ?」
本当にカクカクシカジカと言うんだからな。美咲も初めて会った時に比べると随分変わったもんだ。

「クリスマスパーティーでする合唱に、特別ゲストとして参加して良いかお願いに行って来たんです」
「特別ゲスト?合唱部の?」
「合唱部にはすでにお話を通していて、理事長先生の許可が出ればってことだったんです」
「何でまた?ただ飯狙いか?」
わざわざ卒業した生徒がクリスマスパーティーに参加する理由が思いつかない。

「違いますよ。上倉先生にクリスマスプレゼントをする為です」
「俺に?何か企んでるのか?」
「はい」
美咲は笑顔でそう答えた。そんな普通に肯定されても困るんだが。

「面倒事は勘弁してくれよ」
「大丈夫ですよ。上倉先生と竹内さんにとって素敵なクリスマスになりますから」
「よく分からんが楽しみにしとくよ」
「はい。それでは用事がありますので失礼しますね」
「ああ。気を付けて帰れよ」
俺と麻巳にとって素敵なクリスマスになる・・・か。

美咲がウソを言ってるとも思えないし、期待してて良いんだろうか?
高級レストランの予約は結局取れなくて、去年同様『やどりぎ』でってことになってる。
麻巳は別にそれで良いって言ってくれてるけど・・・

「ま、考えてても仕方ないか。早く行かないとまた田丸に怒られる」
俺は小走りで美術室に向かって行った。





終わり

初の竹内麻巳SSいかがでしたでしょうか?本編から1年後のクリスマスを舞台に書きました。
ちなみにプロットは一昨年の10月に完成してました。んでこの前編の半分以上書いてから丸2年放置。
ホント放置プレイが好きだな〜。これもたまたまファイル整理してて気付いたという一品です。
せっかく麻巳の誕生日も近いということで、2年遅れで誕生日祝い兼クリスマスSSとして公開しようと思い立った次第です。

当初は1話完結の予定だったんですが、余りにも長過ぎたので前後編に分けました。
その影響で年末の更新予定が大きく狂ったりしてるのはご愛嬌。
コロコロ視点が変わるのは、第3者視点で書けなくなってるからです。どうやって書いてたっけか。
のかーびぃの大好きな朋子は後編でちょっと出ます。エリスは出番無し。
結局今年は朋子SS書けなかったな〜。来年こそは朋子SSを書きたいもんです。



                                          
聖なる夜は貴方と共に(前編)
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