「『梅雨がやって参りました』じゃねーよ。全く・・・こうも雨続きじゃ何もする気が起きん・・・」

雨空の昼前の休日

梅雨のためにしきりに雨が降り続く平穏な今日ををダラダラと過ごしていた

先週、晴れて梅雨入りを果たした初音島は一日も間隔開けずに雨が降っていた。連日の雨に島が沈んでしまうのではないかとも思う

「あーかったる」

ソファーの上で器用に寝返りを打って立ち上がった

そして、窓からカーテンを開けて空を睨む

空一面に重工業地帯の煙を充たした様な雲が拡がり、その雲は相も変わらず頻りに雨を降らせていた

「雨、止みませんね」

振り返ろうと思ったが、振り返る間もなく隣に並ばれる

「あーあ、今日こそは出かけたかったのになぁ」

音夢は残念そうに溜息をつきながら窓の外を見ている

「これじゃどこにも行けないね」

「まぁ・・・この天気だしな。傘さしながら・・・ってのもかったるいし」

雨だから仕方がない。全くだ









俺達が恋人同士になってから、さほど日は経っていない

だからつい先週までの休日は毎回のように「デートしよう」と音夢に連れ回されていた

そりゃ恋人と遊びに行くことに意義は全くないがこの変わりようには正直驚いた

病弱、そのレッテルは恋人になると同時に嘘のように消え去り、変わりにアウトドア、のレッテルが貼り変えられた

「まさか仮病だったのか。」と冗談で言ってみたら、ぐーの拳が下腹部にめり込んだので、二度と言わないことにした

とにかくそんなアクティブになった音夢には申し訳ないが今日は一日、以前のように怠慢に溢れた一日を過ごそうと思う








ごろりと再びソファーに仰向けに寝転び、何も考えることなく天井を見つめていた
 
すると、その傍らでテレビをボンヤリと眺めていた音夢が、声を高らめた

「兄さん。お昼過ぎには止むみたいですよ!」

「何が〜・・・。」

「雨がです!」

「あ〜・・・鵜呑みにしない方がいいんじゃないか?」

胡散臭い事を適当に言っているような天気予報士は、確かに昼から雨は止むと言っている

とは言っても、すっかり雨が上がるわけではないだろう。一時的な物だと、俺はそう思う

「そんな人間不信になっちゃ駄目です。後ろ向きな人間は損が多いですよ?」

「例えば?」と聞き返してやりたかったが、ムキになって反論されそうなので、止めておくことにした

とは言えかなりの興奮状態になっているようだ。そわそわしている

「一歩進んで二歩下がる。これも重要なんだな」

「一向に前に進まないじゃないですか」

いや、その通りだけど・・・格言に文句言われても困る

動く気が全くない俺のことを見て不満そうにブツブツと言葉を並べだした

流石に見るに堪えたので、少し試してみることにした

「じゃあさ、雨止まなかったら何かしてくれる?」

「え?」

「いや、例えばだな・・・」

頭の中であんな事やこんな事やイケナイ想像をしていると季節に似つかわしくない冬の空よりも冷たい目で音夢が睨んでいた

「楽しそうなキャンパスが頭の中にあるんですね〜」

笑ってない、顔が。

「いや・・・とにかくあれだ。そう言うことだ」

「どういう事ですか・・・」

未だ冷たい視線を送り続けてくる音夢だが、ハッと閃いたように手を叩き、言った

「じゃあ止んだらどうします?」

「いや、待て。その言葉は可笑しい」

「なにがですが?」

「その質問は先に俺がしたはずだろう。質問に質問で返すな」

「いいじゃないですか?」

何をどう解釈したらこれがよくなるんだ・・・

なんだか我が侭に拍車がかかった気もするな・・・

「で、どうなんです?」

ずいっと体の乗り出しして詰め寄ってきた

距離が狭まってよく見えるようになった音夢の瞳は期待に満ちていた

どうやら根底を覆すことはもはや不可能のようだ。観念して話に乗ることにした

「なんでも言うこと聞いてやる」

言うのは簡単、が、恐ろしい一言。我ながらよく言うよ、と思う

「本当ですね?じゃあ新しいお洋服が欲しいので買いに行きましょう」

「いや、待て待て。まだ降ってるだろ。雨」

「すぐに止みます。ほら、行きますよ」

「止まない。まぁ昼まで待ってみろよ」

競走馬モード全開な音夢を宥め、昼まで折り合えず待つことにした

まぁどうせ止むことはないのだ。のんびりしよう

さて・・・俺のお願いはやっぱり・・・あれだな

どうせ今日は一日雨だし・・・もうけもうけ









「さ、出かけましょう」

どうだろう、この現実は

さっきまで降っていた雨はすっかり止んでしまい、おてんとさんが憎たらしく俺を見下しているように見える。これが自然のパワーか

予報通り、さっきの気象予報士の驚く顔が目に浮かぶ

ドアを勢いよく開いて外に飛び出す音夢

このシチュを美春で試すと玄関前にある水たまりで派手に転けそうだ

「約束。覚えてますね?」

「忘れた」

「なっ」

決して忘れた訳じゃない。だがその言葉を言える環境になったのだ

「ふ。音夢よ。上を見ろ!」

ビシッと指を空に向ける

その空からは再び小雨だが雨が降り出していた

「あ・・・いや。まだ大丈夫です!」

「おっと、契約破棄か?それは駄目だと思うぞ?」

「に、兄さんがダラダラ準備してるから雨が降って来ちゃったんじゃないですか!」

「どのみち道中で雨に打たれてただろ?」

「むむ・・・もういいです!1人で出かけてきますから!」

そう言い置いて恐らく商店街に向かう背中を、俺は溜め息を漏らしながら、ただ見送った

一度言い出したら聞かないのだ、よく知っている










それから間もなく。 俺の予想は当たった

一度止んだ雨だが、再び斜めの雨粒が溢れ始め、ものの数分も経たないうちに元通りの景色が窓に映り始めた

してやったり、と言った感じの雨雲、おてんとさん敗れる・・・か

さて、屈辱感に打ちひしがれて帰って来るあいつをどう迎えてやろうか・・・

笑うか?いや・・・明日が無くなる

慰めるか・・・?いや・・・返って怒りを買いそうだ

・・・触らぬ神に祟り無し

なんて考えているとふと先ほどの事を思いだした

「あいつ・・・傘持ってたか?」

まあ、晴れると信じての行動、考えられない事もない。が・・・

見切り発車にも程があるぞ。全く

今は梅雨時だったいうのに・・・

心の中でぶつぶつと愚痴を並べながら、音夢お気に入りの傘に手を差し延べる。

そして、玄関のドアを開けると、音夢が向かいそうな場所を頭に思い浮かべながら、雨の商店街へと靴先を向けた







デートの時に必ず訪れる店の窓際に音夢はいた

退屈そうに窓の外をぼ〜っと眺めながら手元にあるケーキを口に運んでいた

店の入り口から、彼女の座る席の隣に腰を下ろす

こちらに気が付いて、一瞬目を丸くする音夢に傘を差し出す

「世話のかかる奴だな」と少し微笑んでみせる

いや、微笑むと言うよりもほくそ笑んだ

「世話がかかって申し訳ないですね・・・。」

屈辱 的だったのだろうか、眉間の辺りをピクプクさせながら「ありがとうございます」と言って持ってきた傘を受け取った

だが、すぐに険は解けてだらしのない笑顔を見せていた










こうして、結局いつもの休日通り、音夢と町中を出歩くハメになった

カフェから家までの道のりをいつものように・・・

いや、実は少しだけ遠回りをした

別に、大した理由は無かったが、何となくというやつだ

「たまにはいいですよね? こういうのも」

「よくないと思うぞ。雨の日は傘をさすのは常識だ」

「いいんです。たまには、ね」

そう言うと音夢は自分の傘を閉じてあろう事か俺の傘下に入ってきた

一本の傘の下でを、音夢が笑い、俺が顔をひきつる

実のところ、それほど悪い気はしない。が、やはり照れくさい

でも音夢が喜ぶなら、それはそれで良いと思うし、お互いに寄り添いながら歩くから、濡れた肩もそれほど気にはならない





雨は相変わらず降り続いている

だが、二人が家に着くそれまでの間なら・・・

それも、悪くはないと思う





終わり

くれないさんあとがき
久しぶりの作品です。テーマは梅雨。ヒロインは音夢です。
もっと甘々にしたかった・・・!無念ですorz
とは言っても出来としてはそんなに悪くはないかと思います。見る人次第ですが(汗
実はまだ仕事終わってません(爆
長編の方は仕事片してから取りかかろうかと思います。
ではでは。



                                        
梅雨空の休日
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