何の為に?

「何で俺はこんなことしてんだろうな?」
卒業式も終わり本校入学まで何もすることもないハズの春休み。
しかし俺は、一昨日の猫捕獲作戦&竹伐採作戦に始まり、挙句昨日は義妹のブラウスをこっそり借りるといったことまでしていた。
そして、今日。

「あや、ごめんなさい朝倉さん。こんなことに付き合わせちゃって」
「いいって。1人でやるには時間が掛かりすぎるだろう?」
朝も早くから花びら集めをしていた。
はたから見れば掃除しているように見えるだろう。
そのせいか道行くおじいさん、おばあさんに「偉いねぇ」とか、「頑張ってね」とか言われてしまった。

「確かに傍から見ればボランティアしてるように見えるな」
「あや、自分の為にしてるんですし感謝されるのは悪いです」
「いいじゃないか、一石二鳥みたいなもんだ。別に掃除して得にはならないけどな」
「私はそうですけど朝倉さんは違いますよ。立派なボランティアです」
和泉子に言われるとたしかにそうだ。バイトでもなんでもないのに俺はなんでこんなことしてるんだ?
和泉子は友達だから手伝ってやりたい、それは確かだけど、それだけじゃない気がする。

「・・・ま、いっか」
「あい?」
「何でもない。ほら、早くしないと終わらないぞ」
俺はテキパキと手を動かし、花びらを集めてはゴミ袋に入れていく。

「昼までには終わるかな?」
「多分終わると思いますよ。でも、空き缶も集めないといけませんし・・・」
「ま、それなら今日中には終わらせれるな。よし、一気にやるぞ」
「あい」
俺は先ほどよりも更に早く手を動かした。
途中杉並に会ったが・・・これは忘れておこう。




昼飯後、最初俺はゴミ箱をひっくり返してアルミ缶を集めていた。
しかし人目も多いので、途中からは道端のを拾うことにしていた。
なんか視線が突き刺さるんだよな。
まぁそりゃ俺だってゴミ箱引っ繰り返してる奴がいたらガン見するか。

「しかしこりゃ・・・」
ますますボランティアしてるように見えるな。

「あれっ?朝倉くん、何してるの?」
空き缶を拾う為に前傾したところで、声を掛けられる。

「ん?ことりか」
「ちわっす」
顔を上げると学園のアイドルであることりがいた。

「よう。やってることは見て分からんか?」
「う〜ん、空き缶拾いしてるね」
「それだけ分かれば十分だ。じゃあな」
俺はことりに深く突っ込まれないように、さっさと次の空き缶を拾いに行く。
ことりって妙に鋭いトコがあるし、突っ込まれてもやっかいだからな。
まさか宇宙船を修理する為に集めてます、なんて言えるハズも無い。
病院に行くことを勧められるのがオチだ。

「あっ、ちょっと朝倉くん。1つだけ聞いていい?」
「なんだ?」
「その顔の傷どうしたのかな〜って。&その腕の内出血」
「2つ聞いてるじゃん。・・・顔のは猫につけられた傷だよ。腕は・・・・・・」
と、ここで俺は次の言葉に詰まってしまう。

「腕は?」
まさか昨日のブラウスがバレて、音夢に投げつけられたタウンページのせいだとは言えん。
他にも実は足の方も内出血してるんだが・・・

「男の傷は勲章みたいなもんだからな。深くは聞かないでくれ」
「ふ〜ん。・・・・・・ま、いいや。じゃあ、ボランティア頑張ってね」
「ああ。ありがと」
手を振って立ち去ることりに、俺も手を振り返した。
なんかことりにはいつも見透かされてるような気がするな〜

「さて、ボランティアじゃないボランティアの続きと行くか」
俺はそう独り言を言って、金バサミを巧みに操り空き缶を回収していく。




「に、兄さん、何してるんですか!?」
「なんだそのオーバーリアクションは?」
音夢はこっちを見たまま口をポカーンと開けていた。

「そりゃ驚きますよ。美春だって驚いてます」
「お前らなぁ」
空き缶拾いをしている俺を見て2人は槍が降るのでは?とまで言い出した。

「音夢先輩、明日は槍どころか隕石が落ちてきますよ」
「どころかってなんだよ」
「だって、夢を見てるんじゃないかってくらいに信じられませんよ?」
「うるさい!」
全くなんて失礼な奴らだ。

「それにしても兄さん、いつからボランティア精神に目覚めたんですか?」
「似合わないことしてるってのは重々承知だ。邪魔するならさっさと行け」
ホント何してんだろうな〜?
なんてことを考えながらも手だけは動かす。

「邪魔だなんて美春たちは。そうだ!なんなら美春も手伝いますよ?」
「私も手伝いますよ、兄さん」
「そりゃ手伝ってくれるのは嬉しいけど・・・。でも、音夢は明日出発だろ?準備も終わってないだろうし」
明日、音夢は島外の看護学校に通う為に向こうの寮へ行く。
音夢の決めたことだし俺は特に反対もしなかった。

「兄さんとは違います。準備なんてとっくに終わってますよ。そうじゃなきゃ美春と出歩いたりなんてしません」
えらい言われようだ。

「でも悪いよ」
「別にいいですよ、それくらい。でも、本当になんでこんなことし始めたんですか?」
「さぁ〜な〜。自分でも良く分からん」
「朝倉先輩らしいですね」
「悪かったな」
昼下がりの商店街。
俺達3人はもくもくと空き缶を拾い集める。

「ん?そう言えばお前ら、なんでここにいたんだ?なにか買うもんでもあったのか?」
「ええ。それはもう」
「あははは、美春は知りませんよ?」
苦笑いをする美春を訝しく思いながら俺は音夢のほうを見る。

「なんか変だな・・・。で、何買ったんだ?」
「それはですね〜。じゃーん」
そう言って音夢は引っ掛けていた手提げ袋から、色とりどりの野菜を取り出した。

「こ、これは・・・・・・」
「美春は知らないですからね」
野菜=手料理=音夢が作る。
という公式が瞬時に頭の中に浮かんでしまう。
明らかにさっきまでとは違う、冷たい汗が俺の背中を伝っていた。

「み、美春が作るんだよな?」
「いえ、美春はちょこ〜っと用事があって・・・」
「私が全部作るんだよ。腕によりをかけて作るから期待してね♪」
音夢は満面の笑みでそんなことをのたまった。

「覚えてろよ・・・」
「さぁ?美春はなんのことかサ〜ッパリ分かりません」
み、美春の奴。自分だけ逃げやがったな。
今日は義妹との最後の晩餐か・・・・・・




「ご苦労さん、2人とも。もうこれぐらいでいいよ」
「いや〜結構疲れますね。後はゴミ箱へと」
「い、いや俺がちゃんとしたトコに持ってくから。ほらゴミ袋貸せよ」
俺は音夢と美春からひったくるようにゴミ袋を奪う。

「じゃあ私は先に帰って晩ご飯作っとくね。お腹減ってるだろうし多めに作っておくから」
2時間の間に見事に忘れかけていたことを思い出させてくれた・・・・・・
しかも多め?少量でも十分な致死量があるというのに、多めなんか食べる前に死ぬ。

「あははは。じゃあ美春も帰りますね」
「多めなら美春にも明日お裾分けしてやるよ」
「え゛っ!?い、いえいえ美春のことは気にせず、朝倉先輩が存分に食べて下さい」
絶対に美春も道連れにしてやる。死ぬ時は一緒だ。

「では朝倉先輩、音夢先輩アデューです」
「うん、じゃあね美春」
「明日は必ず見送りに行きますから」
そう言うと美春はバス停の方に向かって走って行った。

「晩ご飯楽しみにしててね」
絶対に楽しみに出来ない言葉を残して音夢も帰って行く。

「かったるい・・・」
思わずそんな言葉を吐きながら、ゴミ袋を背負って俺は公園に向かって歩いて行った。




「よぅ、和泉子。そっちは集まったか?」
「あや、朝倉さん。お帰りなさい。こっちの首尾はばっちりですよ」
夕焼けの公園で俺はピンクのくまと落ち合った。もとい和泉子と。
和泉子の周りには花びらの入った袋と空き缶の入った袋が置いてある。

「結構集めてるな。これで、量は足りるか?」
「きちんと計量しないと分からないですけど、誤差は私の方でどうにかできます」
思えば変なもんばっか集めさせられたもんだ。
猫のヒゲ4本。竹2s。使用済みブラウス。桜の花びら。空き缶。
ホントにこれで直るのか?ってもんばっかりだ。

「じゃ、ちゃっちゃっと運び込もうぜ?」
「あい。あ、これはスチールだからゴミ箱にと・・・」
そう言って和泉子はスチール缶をゴミ箱に入れに行く。

「わざわざスチール缶まで集めてたのか?」
「あい、これでボランティアになるならいいかなって」
ボランティアか・・・・・・
俺は・・・なんで和泉子のことを手伝ってんだろう?

「じゃあまた明日な」
「あい。さようならです」
和泉子と別れて家に帰るまでの間もそのことをずっと考えていた。
今日1日ずっと考えていたが、結局その答えは分からなかった。

なんでこんなことしてんだ?

俺しか事情を知らないからか?

いや、そんなことじゃない。

じゃあ、なぜ?

そんな悩みも、音夢の料理の後には考える気も失せるほどに粉砕されてしまったが・・・・・・




翌日、音夢を見送った後に和泉子の宇宙船の修理の様子を見に来た。
傍からは全く分からないが、見えない所で修理は順調に進んでいるらしい。

「また明日」
今日も俺は和泉子にそう言って別れた。
でも・・・和泉子が地球にいる時間はもう長くない。
別れ際に言った「また明日」が言えなくなる。


和泉子と別れるのが嫌だ。


頭の中でそう考える自分がいた。
何故そう思うのかその答えはよく分からない。
でも、きっと答えは出ると思う。
和泉子が地球を離れようとする時までには・・・・・・





終わり

これで完成?って感じですが完成です。
P.C.(プラスコミュニケーション)と組み合わせて読んで貰えるとよく分かると思います。
和泉子の誕生日からかなり遅れましたが勘弁してください。
クリスマスSSも製作予定ですが、出来るかどうかは未定。
それでは次回作にちょっとだけご期待ください。

2009/03/10
加筆修正



                                           
inserted by FC2 system