俺はさくらと計画を立て、いよいよ記憶を蘇らせることにした。美春の記憶を使って。

「ハルちゃん、何をするの?」
場所はなぜか兄貴の家の部屋のベッドだった。
俺は何も知らない美春をそのベッドに連れて行き、美春を眠らせた。美春はスヤスヤと寝ている。
別にやましいことはしないからな、美春。

「よし、これでOK! いいぞ、さくら」
「もう、ボクを呼び捨てにしないで」
兄貴と音夢さんは俺たちを見守っていた。

「蘇るんだね、ハルちゃんの記憶」
「ああ」
俺はさくらの言ったとおり、美春を横に向け眠らせた。

「じゃあ、美春ちゃんの横に行って、おでこをくっつけて」
俺は美春の額に自分の額をくっつけた。
美春の寝ている顔が間近にあって、俺は何だか顔が赤くなりそうだった。
だってさ、あと数cmすれば俺の唇と美春の唇がくっつきそうなんだぜ。
・・・何考えてんだ、俺。

「これでいいか?」
「うん、じゃあ寝て」
こういう時にだけ、すぐには眠れないものだな。
しばらくして瞼が重くなり、俺は眠りにおちた。
その時さくらは何をしているのか寝ていたのでわからなかったが、俺は心地よかった。
そして俺はある夢を見た。




「ハルちゃん、どこ」
「どこにも居ないよぉ」
「困ったな。あいつ、かくれんぼの天才だからな」

場所は桜の葉が舞い散る秘密基地。そこで俺たちはかくれんぼをしていた。
その時の俺たちは、かなり小さい歳だった。鬼は・・・音夢さんかな。
俺の視界だと、木の枝に乗っかっているのか。それにしては随分高いな。
どうやら俺は木の一番上の枝に乗っかっていた。
俺はみんながもう自分の場所がわからないだろうと察し、そこから飛び降りた。

「あ〜あ、この飯田春巳様を見つけられないとは、まだまだだな」
俺の名前は『飯田春巳』っていうのか。名前もこれでわかった。
そして今の俺は天枷家に養子という形で暮らしている。

「わからないよ」
「お前はかくれんぼのスペシャリストだな。じゃあ、次は春巳が鬼だ」
「えええ!? 何で!」
「だってハルちゃんを探すのが一番大変なんだよ」
「ちょっと待てよ。次の鬼は美春だろ」
「やだよ、ハルちゃんを探すの大変なんだから」
「3対1でお前が鬼になることが決まったぞ」
「あ〜あ、わかったよ」




俺は昔の音夢さんと兄貴、そして美春と秘密基地での遊びを思い出した。
そして写真にある肩車をしたシーンになっていた。

「わわわ、肩車なんてキツいよ」
「バカ、上にいるお前は楽だろ」
「上に乗っているだけでもバランスを整えるのが大変なんだよ」
「お、おい、しっかり体勢整えろって」
「わわわ、わーーー!!!」
「バカ、俺の目を隠すな! 見えないだろ! つーか、喉が・・・苦しい・・・」

どすん!

「ちょっと、2人とも大丈夫?」
「美春は大丈夫だけど・・・」
「こっちも心配はない。だけど、倒れるときに美春の脚が俺の喉に当たって・・・」
「あ、ごめんごめん」


ははは・・・、こりゃ災難だな。


そして周りの風景も一変し、俺たちは小学生中学年か高学年あたりに成長していた。
俺は兄貴の家の庭でサッカーをしていた。
音夢さんと美春は家に居た。

「そら、そっち行ったぞ!」
「おっし、シュート!!」
だが、俺のシュートは兄貴の上を飛んで隣の家の庭に入ってしまった。

「どこ蹴ってんだよ。さくらの家に行ったぞ」
「あ〜やっちゃった。取りに行ってきます」
俺はさくらの家の庭に入った。

「もう気をつけてよね。ボクの頭に当たったんだから」
「ごめんごめん」
これがさくらとの繋がり?案外あっさりとしてたな。
特にさくらとのエピソードもないというのか。

結局水越姉妹とのエピソードもないし、これで終わったのか。

いや、まだあった。




俺と美春、そして兄貴、音夢さんはおなじみ朝倉家でトランプをしていた。ババぬきをしていた。

「ほれ、美春。引いてみろ」
「え〜とねぇ、これ!」
美春は俺から1枚取った。

「よかった、ジョーカーじゃなくて」
「次は俺の番だな。ええと、音夢姉ちゃんのを1枚取ればいいんだな」
「うん」
音夢姉ちゃん・・・、俺は小さい時にそう呼んでいたんだな。
俺は音夢さ、じゃなかった音夢姉ちゃんのトランプを引いた。

「げっ!」
「やったぁ」
「うぅ・・・」
「声出していたら、すぐにわかっちまうぞ。春巳がジョーカーを持っているってことが」
あちゃ〜、バレバレか。

「ふふふ、美春、ジョーカーはこの中の1枚のどこかにあるぞ。
さぁ、ジョーカーを取るのだ・・・ジョーカーを取るのだ・・・ジョーカーを取るのだ・・・」
「何か怖いよ、ハルちゃん」
結局、美春に向けての呪いも虚しく、俺の負けで終わった。

「じゃ、負けた2人は買い物に行ってくるように」
「ちぇ、負けかよ」
「そんなぁ」
結局負けた俺と美春は買い物に行くことになった。

「約束だろ、下位2人はお菓子を買いに行くことって」
『はーい・・・』

俺と美春は外に出て、大きな商店街に行った。
そこは人が満ち溢れており、時折、そこを車が通る。
何のことはない、ちゃんと歩道もついている。

・・・そう、今見ると、それはあの事故と同じ所だったのだ。

「あ〜あ、あの時美春がジョーカーを引いておけば、俺はビリ脱出だったのに」
「ビリ脱出しても、結局買出しに行くのには変わりないよ」

あ、そうだった。ちぇ〜、ってことは音夢姉ちゃんに勝たなきゃならなかったのか。
でもローテーションが俺→美春→兄貴→音夢姉ちゃんじゃ勝つのが難しいな。
美春次第だったのか。

「あんまりお金がないから、『うまぁい棒』だけにしとくか」
「じゃあ、バナ・・・」
「バナナも駄目だ。お金の余裕がないんだからな」
「うぅ・・・(涙)」




一通り買い物も終え、俺たちは家路につこうとしていたのだが、

「あ〜、喉渇いたな」
俺はずっと水を飲んでいなかったので、喉がカラカラだった。

「なあ、美春。ちょっとこれ、持ってくれないか」
「あ、私のも」
「ああ、わかったよ。バナナジュースだろ。俺の炭酸ジュースとミックスにしてあげるからな。これも日頃のお礼だ」
「え、ちょ、ちょっと!」

俺は美春に買い物の袋を持たせ、俺は自販のところに行った。
もちろん、ミックスにするなんて冗談だ。

「もう、ハルちゃんったら。・・・ん?いい匂い〜」

美春はその匂いの元を見た。
何と、クレープ屋がそこにはあるではないか。それに今作っている具材はバナナ。
いかにも美春が好きそうなクレープだ(っていうより、好きなんだよな、バナナ)

「うまそうなバナナ〜」
俺はそんな美春に気づかなかった。




俺は自販でジュースを選び、コーラを取った。だが、次第に周りの人たちがざわつき始めた。

「ちょっと、あの子、道路に出ているわよ」
「危ないわね。小学生かしら?」
道路に出ている?危ない?小学生?俺はその方向に目を向けた。
何と、美春は2車線の車道に足を踏み入れていたのだ。
しかも交通量だってそう少なくはない。つーか、車が来ているぞ。

「美春っ!」
このままじゃ轢かれる!俺はコーラを捨て、美春の所に駆け込んだ。
まだ美春気づいてないのかよ。もうすぐ側に・・・って、おい!!
車がもうすぐ側に来てるじゃないかよ。
俺は美春のほうに走ったが、このままじゃ間に合わないかもしれない。

「!!」
美春も車が来ていることに気づいた。
徐々に車が近づいてきている。車の運転士も美春に気づき、ブレーキをかけたが、かけた場所が悪かった。
車は止まることなく美春に近づいている。美春はその危機感で身動きがとれなくなっていた。

「きゃぁーーーー!!!!」
どうか間に合ってくれっ!!
俺は自分でも信じられないくらいに猛スピードで走っていた。
だが、それでも本当に美春をかばうことができるかどうかはわからなかった。

「美春ぅーー!!」
俺は右手で美春を突きとばした。
もう車は1mもないところまで近づいてきている。せめて間に合わなくても俺の右腕で美春を突き飛ばせば何とかなる。
俺は猛スピードで美春に向かって突き飛ばしたため、美春は反対側の歩道までとんだ。
だが、

キキィ!!!!

その時、俺の中で鈍い音がしていた。
重い感じ、全身にくる痛み、そして目をうっすら開けると、視界が全て真っ赤に染まっていた。
俺は車の下敷にされていた。

「・・・」
美春・・・よかったな・・・お前は・・・無事だ・・・。

「は、ハルちゃん!!」
しばらくして、車がバックした。だが、感覚が麻痺していて、重い感じはなくならなかった。
そして、頭が空っぽになっているようなこの状態は一体、なんだろう。
美春が俺の所に駆けつけてきた。俺を抱く。

「しっかりして! ハルちゃん!」
「・・・よかった・・・お前が・・・無事で・・・」
「ハルちゃん、やだよ。死なないでよ。もっとハルちゃんと遊びたいし、お姉ちゃんとお兄ちゃんとも遊びたいし」
お姉ちゃん・・・お兄ちゃん・・・って・・・誰だっけ・・・?何も・・・思いつかないな。
あぁ、美春以外の人たちのこと・・・覚えてないや・・・。

「もしか・・・したら・・・俺は・・・死ぬ・・・かも・・・しれな・・・い・・・」
段々意識が遠のいてきた。美春の悲しい顔はあまり見たくはない。
お前は笑顔が素敵なんだ。そんな、泣きじゃくった顔してどうする。
・・・そうか、俺が・・・大怪我・・・してんだ・・・もんな。泣くのも・・・当たり前だ・・・。
でもよ、もう・・・俺・・・元の・・・俺に・・・戻らない・・・かも・・・しれない・・・。

「元気・・・でな、・・・み・・・は・・・・・・る・・・・・・」
俺の意識はそこで途絶えた。

「ハルちゃーーーーーん!!!!!!」




そして、俺は病院に運び込まれた。
俺は長期の入院生活を余儀なくされた。
兄貴と音夢姉ちゃんはその日の夜に病院に来た。
やはりショックで音夢姉ちゃんは美春と涙を流し、兄貴も罰ゲームをさせた後悔で悔し涙を流していた。

それとは対照に俺の寝た顔は無表情で悲しみなどなかった。
しばらくの間、俺は目を開けなかった。
そしてその翌日から美春はバナナ恐怖症に陥り、一切バナナを食べなくなった。
それは美春にあってはならないことだ。俺のせいなのか・・・

そのうえ美春は、俺が事故に遭ったショックでその時の記憶をあまり持っていなかった。
兄貴は音夢姉ちゃんとさくらと平和に暮らしていたのだが、美春のバナナ嫌い、俺の存在のせいで何か物足りなさを感じていた。
さくらはこの事故のことがわかったのか、俺の事故のことは一切誰にも口に出すことはなかった。




そして俺が目を開けたのはそれから半年。
俺が目を覚ましたことによって、そして俺が美春に『バナナ好きなお前は俺にとってかけがえのない存在だ』と言って、
美春はバナナ嫌いを克服し、元通りになった。
っていうより、バナナに対する愛情が前より一層増した感じがしていた。

その時の俺は記憶喪失のせいで(なぜか)美春以外の人たちの記憶を無くしてしまった。
俺の脳から兄貴と音夢姉ちゃんとの遊んだ記憶までもなくなってしまったのだ。
美春は後日、俺が目を覚ましたこと、記憶喪失になったことを兄貴たちに言った。
それを知ってか、兄貴、音夢姉ちゃん、さくらはそれ以来俺の病室に現れなかった。

なぜ俺が美春だけを覚えていたのかがその時、わかった。
それは、俺が車と頭を強打した後、美春の顔を見て彼女の名を口にしたこと。
美春の泣き顔を見て、俺は意識を失った。
だが、その顔がどうも脳に残り、俺の脳は美春の以前からの記憶を再びインプットしていたのだ。

そして記憶喪失ということで、俺の脳から美春以外の人たちのデータが消えた。
そのうえ、運が悪く俺自体のデータまでもが消えてしまった。
それが理由だ。




俺と美春はさくらによる魔法から目を覚ました。





続く

あとがき
海です♪
完全に『ハル』は昔の出来事を全て思い出しましたね。
とてもシリアスになった部分もありますが、次の話からはもとの「ほのぼの系ギャグ」になっていますので、ご安心ください。
あと、純一の恋人のことなのですが、音夢が純一の恋人という設定です。
なのでさくらとも、ことりとも、もちろん美春とも何も純一との恋愛関係はありません。
あるとしても、片思いくらいです。

管理人から
さくらとの関係が淡白でしたね〜
これじゃ覚えてないのは当たり前ですね。
しかし、音夢が純一の恋人ですか。本来なら普通な設定なんですが、S.S.のせいで自分はこれから敬遠しそうです。
目を覚ましたハルはどうするのか?第5話に続きます。



                                         

D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第一章
「記憶喪失、俺の存在、美春」C

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