D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第5.6章
「シバ」@
いつものように俺らの居場所となる屋上にいる。
俺らは地べたで横になり、群青の空を見上げていた。

「・・・たりぃな、最近」
久住がため息を吐きながら言う。

「どうしたんだよ、久住」
めんどくさそうに酒々井が言った。

「何かな、最近ここも平和になったなって思うんだよ」
女とケンカが好きな久住からすれば、平和なこの初音島が退屈なのだろう。
とはいうものの、さくらさんが言うには俺が現れてから周りでケンカも耐えない事件が勃発していると言っていた。
ったく、俺は何もしてねーっていうのに・・・。
それから数ヶ月経って、ようやく初音島では何も事件は起きない。
ま、俺らが昔いたところではほぼ3日に1回はケンカがあったからな。
そんな生活をしていたから何もない平和な街にいるのが久住は慣れないのだろう。

「いいじゃねェか、ケンカするならいつでも俺が付き合ってやっからよォ」
酒々井が言う。
俺と成田は何も言うことなく、ただ空を見上げただけだった。

「なぁ、春巳・・・」
が、成田が小声で俺に言った、俺に向くことなく。

「ん?」
「やつが・・・来たそうだ」
「・・・知ってる」
「会わんのか?」
「・・・俺の生活ではほぼ毎日女の子と一緒に下校してるんだぞ。
奴にそんな状況で会えるのか?」
「まぁ、な」
すっかり杉並先輩の更生術を解いた成田は、最近は情報収集をよくしている。
これで俺も少しほっとしたかな。

「で、あいつは何故ここに来たんだ?」
成田に質問をする。

「何って、俺らを探索しに来訪したんだろ。まぁ、あいつはお前にだけしか心を開いてないがな」
「・・・ったく、恐ろしい奴が現れたもんだな」
俺は屋上を出る。

「おい、どこに行くんだ」
2人だけの話で盛り上がっていた酒々井が俺に言った。
が、俺は脚を止めることなく、階段を下りた。

「放っておけ、会わねばならぬ奴のところに行くんだ、あいつは」
成田が酒々井に言った。

「現れたんだよ、『シバ』が」
シバ、つまりは椎柴がこの初音島に現れたのだ。

「何か懐かしいよな、あいつ」
その成田と酒々井の会話に久住が無理やり割って入る。

「だけどよ、俺の話には聞く耳持ってくれなかったぞ」
「そりゃ、てめェは女の話しかしてねーだからだろが!」
「やっぱり? 奴は嫌いだからな、女が」




成田から情報をもらい、俺はあるコンビニに行った。
奴らしくねェな、こんな接客重視なところでバイトなんてよ。何だ、金が底を尽きたのか?
ま、俺はそんなことを考えながら店に入った。

「・・・いらっしゃいませ」
やけに声が小さい、がしかし透き通った声の店員が1人いた。

「!!」
「お、お前・・・!」

その店員も俺の顔を観て、驚きの声をあげる。

「・・・・・・春巳」
「シバ!」
まさかとは思っていたが、こんなところで働いていたとは思ってもみなかった。
たいてい勤務とか合わないだろうと思っていた。

「・・・お前、春巳なのか」
「ああ。つか、何してんだ、お前」
「・・・るせェな、金稼ぎだ」
相変わらず口数が少ない。まさか本当にコンビニで働いていたとは・・・性に合わない。

「金稼ぎって、なぜにコンビニ」
「・・・黙れ。募集してんのはここしかなかったからだ」
「他にもあんだろ。接客関係以外で・・・」
俺が言い始めたところで、シバが俺の口の前で指を出す。

「・・・申し訳ございません。
他のお客さまのご迷惑になりますので、冷やかしなら出てください」
「・・・」
何だこいつ、変なところ真面目になったな。
俺が気づくと、後ろには客の列が出来上がっていた。オバサン達がいらいらしていた。

「わかったよ。仕事が終わるまで外で待ってる」
俺は店を出た。




それから30分後、シバが店を出てきた。

「お前、真面目に更生したのか」
「・・・いや。至って変わらん」
いやいやいや、俺に対するあの態度はどっからどうみても更生したに違いない。
一言もかまずに丁寧語を言えるなんて口数の少ないシバからすれば絶対にない。
ってか、何でこいつが初音島に? また姐さんや春巳組のやつらみたく、俺を探しに来たからか?

「お前、何でこんなところにいんだよ。向こうの生活が退屈か?」
「・・・いや、そういうことではない」
「何だよ、もったいぶらずに言えよ」
「・・・誰にも言うなよ」
「わかったから早く言え」
「・・・祖母に会いに行こうとした」
「おう」
「・・・船、乗り間違えた」
「・・・」
「・・・」
「・・・それで?」
「・・・帰る金がなくなった」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
まさかシバがそこまでバカだったとは、今までつるんでたのにしらなかった。

「お前の婆さんの居場所はわからんが、姐さんならここに来てるよ」
「・・・夏日姐? 本当か!?」
「ああ、俺を探しに来てな。携帯で連絡しとこうか?」
「・・・頼む」

結局シバの目的はシバの婆さんに会うことから姐さんに会うことに目的が変わった。
俺は携帯で姐さんを呼んだ。




俺は携帯で姐さんと話した後に、もう少しシバと時間を潰した。
話によれば婆ちゃんの家に行くつもりが、あろうことか初音島行きの船に間違って乗ってしまった。
そして船で爆睡していたシバは到着して目的地を間違えたことに気づき帰ろうとしたが、持ち金が足らず、
どっかで金を稼ぐ方法を探していたが、募集しているのはコンビニしかなかったことに気づき、
一度はそれをやめてどっかの裏金で稼ごうとしたのだが、それも全くなかったので、結局コンビニで働くことに。
ちなみに俺が会った日が初日のようだ。
それよりも俺が心配なのは・・・ケンカのことだった。

「お前、もし酔っぱらいとかが店に来たらどうするつもりだ。殴るわけにもいかんだろ」
「・・・」
「殴ったら即クビだ」
「・・・わかってる。それはわかってるが」
「どう対処するつもりだ?」
俺は絶対シバがそれをすることはわかる。
昔のシバは物静かだったが、人を寄せ付けないオーラをその時から出していた。
俺と初めて会ったときもケンカを売るような鋭い目つきで睨んでいた。俺はシバが気に入らず互いに殴りあった。







「・・・貴様、できるな」
「何だよ、今更」
「・・・何の武術をしている」
「っせェな。そんなの聞いてどうする」
「・・・いいから言え」
「ま、ちまたでは有名な元帥の下で修行・・・とでも言っておこうか」
「・・・道理でな。貴様の腰につけているものの意味がわかった」

当時の俺は、腰に銃を着飾っていた。シバはそれを一目で見てわかった。
俺らがいた街では、元帥の名は裏業界ではかなり有名だった。
人殺しを好み気性が荒く、弟子といえども殺すのが綱領として掲げられていた。
初めて会った時は俺でさえ近寄れなかったが、元帥は俺の才能を見出したのだろう。すぐに修行を始めた。

だが、その修行というのがいきなり拳銃を向けられ、その攻撃を回避するものだった。
もちろん俺はよけきれず、全身に傷を負い一度は死にそうになったこともある。
そんな時に、姐さんが薬をいつも出してくれていつもの状態に回復する。そして元帥の修行で怪我する。
そして姐さんによってまた回復する。
要は怪我→回復→怪我→回復というループ・・・。
そんな俺達はその修行のおかげで何事にも戦うときは『死ぬ気』でやることを覚えた。
戦いの最後には『死』があることもそれらの修行でわかった。

「てめェ、知ってるのか、元帥のこと」
「・・・有名だからな。俺もそいつに会いたい。つか、会わせろ」
「・・・」
俺はシバの襟首を掴んで元帥の下に連れて行った。

「・・・貴様は人間の扱いというものを知らんのか」
「・・・黙れ」







元帥に会うも、あれからはシバは俺ら『春巳組』に入ることなくただ独立して過ごしていた。
『春巳組』に合流することもなかった。シバは俺と姐さんとしか心を開いていない。
まれに『春巳組』の奴らと話すときもあるが、あれはただ存在としているだけだった。
俺はよく姐さんとタッグで他の街の不良どもとケンカしていた。
そんな日々が長く続いていたからか、シバが俺に会うときも傍らには姐さんがいた。姐さんはシバをよくかわいがっていた。
だが基本的に女を嫌うシバも初めは拒絶していたが、姐さんの行動には対応できず結局なすがままにされてしまうのだった。
あるいはあれかな、当時の姐さんを女として観ていなかっただけなのかもしれねェな。







「・・・考えとく」
結局シバに答えは出なかった。

「春巳!」
バイク音をけたたましく鳴らしながら姐さんがバイクに乗ってやってきた。姐さんはヘルメットを外す。

「・・・夏日姐!」
シバは今の姐さんの容姿を見て、驚愕していた。以前よりグラマーになっているのだから驚くのも無理はない。
が、問題はシバがどう姐さんに対処するからだ。また昔に戻ってしまうのだろうか。

「あれ、もしかしてこれ、シバ。久しぶりじゃん!
全然変わってねェ。相変わらずムスッとしちゃってさ!」
「・・・るっせェな」
姐さんはバイクから降り、シバの顔に手をやり頬ずりする。

「いやぁ〜〜、だけどアンタたちまだまだ子供だねぇ。
頬に合わせりゃまだ幼さが残ってるよ」
「・・・やめろ、恥ずかしい!」
シバは嫌がっていたが、それでも姐さんと俺に会えたことでも喜びは隠し切れない。

「何照れてんの。久々なんだからいいじゃない」
「・・・夏日姐、アンタは変わりすぎだ」
やっぱあれだろ、あの部分とかが。

「・・・胸、でかくなったな、夏日姐」
シバが照れくさく小声で話す。

「・・・小さかったのによ」
「え、もしかしてアンタ、小さいのが好きなの?」
姐さんがシバに顔を寄せる。目は爛々としているところをみれば、姐さんは相当興味があるようだ。

「・・・」
「ちょっと、答えなさいよ!」
「・・・」
「答えてよっ!」
「・・・っせェな」
「・・・」
俺はこの2人のやりとりをしばしば観ていたが、さすがのシバも姐さんの軽い問いつめにはかなわない。

「で、どうなの?」
「・・・ああ」
「やっぱりね! アンタむっつりスケベなんだし」
だが、調子に乗った姐さんのこの言葉でシバを逆上させた。

「・・・んだとコラァ! 俺は女なんか好きじゃねェ!!」
シバは姐さんを突き飛ばした。飛ばされた姐さんを俺がカバーする。

「もぅ・・・相変わらずつれないね」
「やりすぎだ、普通に」
やれやれと言った具合に俺が溜息をつく。

「そうか? 久々の感動の再会なんだからこれぐらいは・・・」
「・・・感動か、本当に感動してんのか!」
しかしシバは顔を真っ赤にしながら言っているところをみれば、恥ずかしがっているのかもしれない。

「あたしなりの愛情だってのに」
「だからそれがやりすぎだっつーの」
姐さんはそう言いつつ、どっかに行ってしまった。
結局会うだけに呼んだ形となってしまった。

「シバ、お前まさか・・・小さい娘とか・・・好き?」
「・・・」
「好きでも、ある・・・?」
「・・・ああ」





「・・・」
「うにゃ、ボクに何か用?」

俺は一応試してみた。

「・・・」
「この人、誰〜?」
さくらさんはシバに話しかけていた。しかしシバは口を開こうとせず、さくらさんから視線を外したままだった。

「・・・」
「おい、何恥ずかしがってんだよ。挨拶くらいしろ」
まるで保護者になった気分だ。シバがまさかここまで無口とは、久々にあったとはいえ思いもしなかった。

「・・・うっす」
「Good after noon〜」
「・・・」
今更思ったが、ことごとく俺の昔の知人を必ずさくらさんに紹介してるような・・・。いや、気のせいだ。おそらく。
シバはさくらさんのほんわかとした英語を耳にし、ようやくしてさくらさんに視線を戻す。

「・・・!」
「うにゃ?」
「・・・気に入った」
「えェェェェェェェ!!」
俺は思わずシバの人間性に驚いてしまった。
いや、いつものシバならこの場を後にし先に家に帰る奴なんだが、おかしい。
まさかシバのそっくりさんか。それともシバのクローン人間なのか。

「おいおいおい、何一目惚れしてんだ、お前は!」
「・・・春巳、こいつはガキだ。女じゃねェ。俺が嫌いなのは女なんだ。ガキでありゃ許せる」
「さりげなく意味わかんねーよ」
「・・・それと俺はこいつに一切惚れちゃいねェ」
「むぅ〜、子供じゃないよ〜」
さくらさんが頬をぷく〜と膨らませる。少しさくらさん、やさぐれちゃったかな。

「いや、さくらさん。今のままでいてください。そうすればシバとも仲良くなれますから」
俺はさくらさんから一旦離れた。

「お前間違いなくアレじゃないのか」
「・・・何だ、アレって」
「つまりだな・・・・・・『ロリペド』」
「!!!」
おい、過剰反応しすぎだろ。言葉になってねェ声出してるよ。

「図星か」
「・・・ざけんな、貴様、殺るぞ」
ありゃりゃ、本気で怒らせちまったか。怒りでごまかしているところなんかいかにもな反応じゃねェか。

「おいおい、んな場違いなとこでするな。さくらさんに成敗されるよ」
「・・・強いのか、あいつ」
「俺では相手にならねェな」
「・・・ガキなのにか?」
「そうだな、あんなロリ娘には勝てないな、さぞかし」
「!!!」
「だから何でそこで余計な反応を起こすんだ、てめェは。『ロリ』って言葉に反応しすぎなんだよ!」
「・・・昔」
シバの話によればスーパーに買い物をしている途中、商品棚においてある上の商品を手に取ろうと四苦八苦している子供を発見した。
その帽子を被った子供のために商品を手に取り、その子供にあげた。
子供が喜び帽子を取った瞬間、何とその子は髪の長い女の子であった。
シバが女性嫌いだということも知らずその女の子は『ありがとうございます!』と笑顔でお礼をした。
その子の笑顔がシバは未だに心に残るらしい・・・。

「と、いうことだ・・・」
「いや、まさかあいつとの出会いってそれだったのか」
実は、俺も一時期だがその女の子と接触したことはある。シバと3人でよく遊んだものだった。それなりにシバとは仲がよかった。

「・・・口にしたのも初めてだ」
・・・キャラに合わずそんなエピソードがあったとは思いもしなかった。

「ちぃ、まさかてめェがそんな情けない嗜好を兼ね揃えていたとはな。意外だった」
「・・・嗜好ではない、勘違いするな」
「外見に似合わず何ていう趣味してんだ、お前は」
「・・・趣味でもない、勘違いするな」
「もぉ〜、さっきから何こそこそ話してるの。ボクも参加させてよぉ〜」
さくらさんが俺の脇から出てきた。

「ってさくらさん、どこから出てきてるんですか」
「だってハルちゃんのここ、何か安心するんだも〜ん」
「首、絞まりますよ」
一応力は抜いてあるが、何か違和感を感じる。

「うにゃにゃ! ハルちゃん、人聞き悪いこと言わないでよぉ〜」
しかしながら、シバは俺に強烈な鋭い視線を向けてきていた。

「何だよ」
「・・・許せん」
「あ?」
「・・・なぜこんなガキ相手に、お前は敬語を使うかが」
「それか」
俺だって、さくらさんにはお世話になったからな。さくらさんがいなかったら、俺は悪い方向に人生を歩んでいたかもしれない。
と、いうのが現段階での答えだろう。
今になればさくらさんがいなくても人生の道を外すことはないが、まだまださくらさんから教えられることはたくさんある。
それに、数少ない俺の良き理解者として。

「俺を、救ってくれたから、さ」
「えへへ」
「・・・」
「だから俺はさくらさんに敬意を表している。ま、容姿はアレだけど」
「アレって、何なのさ!」
「自分をよく見てください」
俺とさくらさんのほのぼの会話を目の当たりにしたシバは視線を逸らした。

「・・・情けねェ」
「言ってろ、何でも」
「・・・お前は変わったな、あの時から」
「・・・」
「・・・あの頃のように、自分の名を広め好きな喧嘩をし放題に、そのうえ銃で悪人を殺めたりしなくなったんだな」
昔の殺伐とした鋭い目つきにシバは変えていった。

「は、はははハルちゃん!? 人、殺しちゃったの?」
「おい、殺めたりはしてねェだろ。俺の過去を勝手に捏造するな」
「・・・」
時々、シバは微妙なボケをかますところがある。そこが対処しにくい。俺や姐さんでやっとである。

「さくらさん、気にしないでください。こいつのボケですから」
「・・・ま、冗談だ」
「にゃはは・・・」
あたりが静けさに増した。




「ねえ、ハルちゃん」
「何ですか」
シバはまたバイト先に戻り、俺とさくらさんは帰路を共にした。

「シバちゃんって、意外と面白いところあるんだね」
「さくらさん、あんな短時間で何でわかるんですか」
まぁ、女が嫌いという点を除けばシバも普通の奴だ。男同士でも話ベタなところもあるけどな。

「わかるよ〜それくらいは」
シバもさくらさんには話はできたから問題はないと思うが、音夢姉ちゃんやことりさんあたりはおそらく仲良くなれないだろうな。
ましてや美春なんて性格が正反対だ。
よく俺はそんないろんな人と付き合えたな。俺も交友範囲広くなったもんだ。

「さくらさんに仲の悪い人っているんですか?」
俺はさくらさんに言う。が、さくらさんは少し、

「・・・いるよ」
俯き加減に言った。核心に触れることでも俺は言ったのだろうか。
俺はさくらさんのそんな様子にやがて気づきはじめた。

「今もいるんですか?あ、ごめんなさい。何か俺、余計なことを言いました?」
「・・・ううん、いいんだよ。昔の話だから。でも不思議なんだ。その人がどうしても思い出せなくて。
ボクが瀕死になるくらいにその人と一度勝負したことあるんだけどね」
以前、2年前の音夢姉ちゃんの事件の時にさくらさんと音夢姉ちゃんの不仲説が浮上したことあったが、あれは兄貴によるもので
今は解決したはず。別段、過去に音夢姉ちゃんと決闘したなんてことも一度も聞いたことがない。

「さくらさんでも、思いだせないことあるんですね」
「不思議でしょ、魔法によってその記憶だけ取り除かれているんだ」
「何かあるんでしょうか」
俺は聞いてはいけないような気がしつつ、その禁断の領域に足を踏み入れる。

「ハルちゃん、君には関係のないことだよ」
「すみません」
「さぁ! そんなこと気にしないでどっかで飲もう!!」
「・・・さくらさん、酒飲めないでしょ」
「誰が酒飲むって言ったぁ? 喫茶店で飲むってことだよぉ」
「何だ、そうだったのですね」




さくらさんと喫茶店(最近音夢姉ちゃんと美春の2人がバイトをしている所)で一杯飲み、帰宅した。
時間の都合上、美春と一緒に帰宅することもできたのだが、当の美春は音夢姉ちゃんのところでお泊りをするらしい。
俺は1人、自宅に戻る。
と、携帯電話が鳴った。

「シバ?」
俺はシバからの電話に出た。

「もし」
『・・・俺だ、椎柴だ』
「わかってる。何の用だ」
『・・・さくらって奴、俺は嫌いじゃない』
「何だよ、そんなことで電話か」
電話の先で言葉に迷っているシバの様子が伺える。

『・・・いや、その・・・俺もさくらに仲間にさせてくれないかと思ってな』
「さくらさんなら、いつでも大歓迎してるさ」
『・・・そうか』
「それにしてもお前、そんなに女が嫌いなんじゃないんじゃないのか」
『・・・どういう意味だ』
シバの声が一層に低くなる。

「姐さんもさくらさんも、普通に話してたじゃんか」
『あの2人だけだ。夏日姐はあんな体になったものの、性格は変わっちゃいねェ』
いや、少しだけその自分の容姿を利用してスケベになったような気はしたがな・・・。

「俺の友である女でもお前は許せんのか」
『・・・お前の友は友。だが、俺には関係ない』
ま、それはしょうもないことか。

「そういえばお前、どっか学校に行ってるのか?」
今更思いだしたが、ここに来たのには何か目的があったに違いない。
シバは本島にいる。それがなぜ、初音島にいるのか。姐さんも同じ。成田も同じ、久住も同じ、酒々井も同じ。

『・・・行っとらん。わからんのか、お前』
「?」
『お前に会いに来たんだぞ』
「やっぱりそうか・・・」
結局はみんな、俺に会うためにわざわざ本島から訪れてきたのだな。

「で、お前も風見学園に転入したのか」
『・・・いや』
「さっさと転入手続きしろよ」
『・・・共学なら許さんぞ。俺、驚愕する』

・・・。

「・・・つまらん」
『・・・』
「・・・」

しばらく沈黙する。電話代がもったいない。

『・・・今日学生をやめる(共学制をやめる)』
「いい加減にしろ」
『・・・如意。あ、そろそろ尿意が近づいて・・・』
「うるせーよ!」

この沈黙の間、洒落を考えていたのかよ。

「ともかく、風見学園に転入しろ。さくらさんの計らいで俺と同じクラスになるだろうからよ」
『・・・お前と同じクラスになったら、俺はお前としか話す相手ができん』
「だったら、お前からクラスメートに話しかけりゃいいだろが」
『・・・そんなキャラじゃねェ』

・・・おいおい。

「じゃあわかった。お前、正直に答えろ」
『・・・?』
「クラスメートとは、話したいんだな?」
『・・・女がいるなら話さん』
「心配するな、俺のクラスには久住や酒々井もいる。もちろん成田もな」
『・・・別にお前さえいれば俺は何とでもなる』

・・・俺は薄々何かを感じた。

「お前、ゲイか?」
『・・・勘違いするな。そういうのを「BL」と言う』
「・・・本島に戻れ」
『・・・冗談だ』

しっかし、クラスの授業で女の子と交流もそこそこある風見学園じゃ、到底シバのような奴が馴染めるところじゃないと感じていた。
とはいうものの、このあたりでは風見学園しか聞いたところはない。

「初音島には『風見学園』しかないぞ」
『・・・くぅ! 仕方ない、そこに入るしかないか』
「覚悟はできたか」
『・・・致し方ない。お前がそこまで言うなら・・・だがな・・・』
「?」
『・・・女だろうとな、むかつく野郎は消せ』
「・・・」

ブツッ
無言のまま、シバは電話を切った。何か学園に行きづらくなってきたな。
昔の友を持つことがこんなにも重いとは・・・。それにしても、俺のクラスって・・・成田がいるだろ、美春がいるだろ、あ・・・。
到底、美春とシバが仲良くなるなんてありえねェような気がしてなかなか寝付けなかった。





続く

あとがき
お待たせいたしました。ようやく5.6章ができました。製作期間延べ3ヶ月・・・。
シバのキャラ性がいまいちまだつかめていませんが、今後には寡黙キャラとして使えるようにします。

管理人から
新キャラ登場ですが、寡黙キャラというには饒舌過ぎる気がしますねぇw
女が苦手というところで、ToHeart2の貴明をやたらと彷彿させました。
例外キャラも姉、妹系と似てますし。しかし最後の方でガチホモ疑惑がwww



                                        
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