D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第5.5章
「姐さん」C
・・・。

「・・・」

何か・・・

「・・・」

場の空気が怪しいな。

「ハルちゃん、何か言ってよ。ボクこういう空気慣れないよ」

さくらさんが俺の耳元で小声で言う。
俺らは近くのファミレスに来ていた。

「あー」

俺はとりあえず、この場の空気を払拭しようとした。

「よろしくお願いします」
笑顔で明るく振舞う姐さん。姐さんは常に第一印象を大切にしているため、こうやって笑顔で明るく接している。
だが、兄貴達には恐ろしい場面を見させてしまったため、もう後のまつりだ。

「姐さん、もう遅いよ」
「何が?」
姐さんは何も気づいていない。
兄貴も、音夢姉ちゃんも、ことりさんも、美春も、さくらさんも何だか姿勢がぎこちなかった。カチカチに凍っている。

「あんな乱暴な言葉を言った後じゃ、丁寧に振舞っても意味ねェだろ」
「やっぱり?
って、そんなことでここにいるわけじゃないの!」
姐さんが無理やり話題を変えた。

「ちょっと、あたしたちを差し置いて何勝手に『春巳組』を作ってるの!
『春巳組』はあたしたちだけで充分よ」
成田はともかく、姐さん・久住は俺らをファミレスに連れ込んで、『春巳組』のことで口論になっていた。
酒々井は別にそんなことに気にしていなく、コーヒーが飲みたかっただけである。

「そうだそうだ、俺らが血がにじむまで創立させた『春巳組』を勝手に使うんじゃねェ!」
「だから、ボクたちのファンクラブは『ハルちゃんファンクラブ』だって言ってるでしょ!」

さっきから姐さんとさくらさんの口論は平行線をたどったままだった。
音夢姉ちゃんは成り行きで、ことりさんは久住に連れ込まれ、兄貴は妹のため、そして美春は俺から離れたくないということで、皆は別にファンクラブ改名騒動には参加していなかった。

「姐さん、このロリ娘の言うことなんてあてにはならん。
俺らが再び立ち上げましょう! そして勝つのです!」
女好きな久住でも、さくらさんのような幼児体系には興味がないそうだ。

「異議アリ! 女の子に対する侮辱を言いました、裁判長!女のコの心を傷つけました〜!」
おいおい、裁判長って・・・。

「あーばかばかしい。外行って漫画でも買ってこよ」
酒々井はファミレスを出て行ってしまった。

「全くだ、かったりぃ」
兄貴も外に出る。

「ホントだ、めんどくせー」
俺も外に出る・・・

「・・・待ってよ」
が、姐さんが俺の腕を掴む。

「ちっ・・・」
逃げられなかった。

「ごめん、久住。その娘の面倒見てて」
「え、姐さん。どこへ?」
「ちょっと、トイレ」
姐さんは俺の腕を掴んだまま、トイレに行った。俺は連れて行かれた。

「わかりました。おい、そこのツインテール! 徹底的に話すぞ!」
「こっちだって徹底抗戦だよぉ!」
無駄なことを・・・。さくらさん、合併すればいいだけの話でしょうが。




姐さんはトイレ・・・にはいかず、トイレに入る仕切りの片隅に俺を連れこんだ。

「何をするつもりですか、姐さん」
「アンタのために、脱いじゃうよ」

・・・はァ!?
姐さんはバイクスーツを脱ぐ。上半身だけ脱ぎ、俺の前でピンクのブラを見せた。
だが、姐さんの胸にも少し変化があった。

「おい、オスの前でアンタは何を・・・」
「どう、少しはでかくなった?」
俺の言葉を遮り、姐さんは顔を俺の顔の真ん前まで近づける。
唇を伸ばせば、キスもできてしまうほどだ。

「でかくなったって・・・?」
「ちょっと、早く言ってよ。もしこんなところ他の人に見られたら・・・」
「え、あ、ァ・・・あァ!?」
姐さんの胸は俺らが出会う前よりかなり成長していた。その点では大人の女性に変貌していた。

「相当でかくなったような・・・」
「さァ、ヤっちゃうのなら今のうちよ」
姐さんが自分の胸を俺に押し付けてくる。俺もうっかりその空気に促されるところだった。

「って、何を考えてんだ!!」
たまらず俺は肩を掴み、押し返す。

「きゃんっ!!」
音夢姉ちゃん同様、姐さんにも2つのモードがあるんだろうか。
いや、することが全て豪快な姐さんだから行動も派手なんだろう。
俺が絡まれた不良どもをバイクごと奴らの体(特に顔を徹底的に)に当てるぐらいなんだから。
だからって、ヤるなんて・・・場所を考えてほしい。

「あんまりでかい声出さないでよ。私がアンタをいやらしく誘惑しているように見えちゃうじゃない。
単に胸の大きさを見せたかっただけなのに・・・」
「いや、充分誘惑してるって」
「やっぱり、恥じらいを感じちゃう女の子のほうが、いい?」
「そりゃ・・・そうだな・・・・・・・・はっ!」

つい本音を言ってしまった。我ながら恥ずかしかった。
そんなことより、この妙な空気から逃れたかった。

「って、姐さん!」
「だからでかい声出さないでよ」
あんまり派手な行動に出ないほうが身のためだな。
こうなりゃ・・・あれを使うしか・・・。

「姐さん、逃げるのなら・・・今のうちだ」
「?」
「実はな・・・俺は・・・スーパーSなんだぜ。
そんなに俺とヤりたいのなら・・・その身体が神経麻痺するまで・・・ヤってやろうか、なぁ」
俺は暗い口調で言った。
これで普通の女性は怯えて逃げるだろう。それに、戦意喪失になる。

「・・・」
姐さんは黙り込んでいた。
俺は姐さんの脇を通り、テーブルに戻る・・・が、

「なら、あたしをいじめて!」
姐さんが背後から抱きついてきた。必要以上に柔らかな胸を俺の背中に押し付けてくる。
俺がSだと言い聞かせ引かせるようにさせたはずなのに・・・これじゃ・・・逆にエスカレートしてねェか?

「わっ! 姐さん、何を」
「今日だけ許してあげるから、あたしを手取り足取りいぢめて」

・・・・・・。

「何でも、して」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やばい。




ハルちゃんと夏日さんがトイレに行ってしばらく経っていたが、一向に戻ってこなかった。
まさか、何か2人だけで秘め事をしてるんじゃ・・・って、何を考えてるの、私。
やがて、私は用事があったことを思い出した。

「朝倉君?」
「何だ、ことり」
「その・・・ちょっと時間が・・・」
「ああ、悪いな。
ま、春巳と夏日さんに代わって俺が謝る。すまんな、こんな茶番に付き合わせてしまって」
「ううん、大丈夫ですよ」
「またね、ことりちゃん」
芳乃さんは手を振うも、久住君と口戦を続けている。
私はいそいそと支度を済ませ、店を後にする。



「結局、ハルちゃんと夏日さんに何も言えなかったなぁ」
と、私がつぶやいていると、私の前に1人の男性が声をかける。

「・・・おい」
「?」
「・・・そこのお前!」
しかしその男性はどこか不穏な空気を放出していた。近寄り難い人だなと想ったのは正直な気持ちです。

「何ですか?」
私は何も知らずその男性に近寄る。

「・・・今、誰と誰の名を口にした」
「誰って・・・?」
「・・・さっき言ったろ、誰だ! 言え!」
男性はどこかいらついていた。あまり時間はかけないほうがいいと察した。
私は怒らせないように、2人の名を名乗る。

「ハルちゃんと夏日さんのこと、ですか?」
「・・・夏日・・・。いるんだな、この近辺に」
「ええ、先ほどあの店で一緒にいましたから」
私は朝倉君たちがいる店を指差す。男性は軽く舌打ちする。

「・・・うぜェな・・・あの女どもは」
彼は小声で何かを言っていたが、私には聞きとれなかった。

「・・・ハルちゃんって誰だ?」
「天枷春巳さんのことですか?」
「・・・春巳? 春巳っていうのは・・・」
「ええ、夏日さんを『姐さん』と慕っている男の子のことですよ」
「・・・そうか」
そして男性は何も言うことなく立ち去った。

「あの・・・」
「・・・失せろ、もう貴様に用はない」
私は彼のその言葉に何も口にすることはなかった。
今まで会った男性の中であれほど(正直)付き合いづらい男性は初めてだった。
・・・。
何か、彼に感じるものがあるけれど・・・もう人の心を読むことはできないしなぁ・・・。
一体、ハルちゃんと夏日さんとはどんな関係だったんだろう・・・。







あとがき
ハル回想話夏日編終わりです。
ですが、まだ続きがあります。ことりに叱咤した謎の男です。
それよりも気になるのは、ハルと姐さんですが・・・・・・・・・・・・・・・ご想像におまかせします★
最近、必ずエッチな内容が入ってきたなとうすうす感じてきております^^;

管理人から
謎の男の正体が気になりますね〜
『えっちなのはいけないと思います』が管理人として言うべきセリフなのかも知れません。
ですが、個人的には『いいぞ、ガンガン行け』が本音ですw



                                        
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