D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第5.5章
「姐さん」@
その昔、当時まだ不良だった俺と成田にも悪友がそれなりにいた。
中には俺らの年齢層から5つも離れた年上の人もいた。
彼女を俺や成田を含め、姐さん(あねさん)と呼んでいた。
姐さんはバイクの技術がずば抜けて優れていて、幅1m程度の路地を100km/hで飛ばす凄腕の持ち主だった。
しかし俺らのような不良仲間はいなく、友人は全員音信不通となってしまい孤独の日々を送っていた。
そんな寂しさを紛らわすためだろうか・・・―――




春巳ら12歳。

「けっ、めんどくせーな。いちいち学校なんかあってよ」
「・・・おう」
俺と成田はいつものように体育のある2時間目から登校していた。
当時の成田も一般的な不良の中坊だった。俺はというと、美春と離れ離れになったショックもあって、心を閉ざしていた。

「酒々井と久住は真面目に来てるんかね」
「・・・ふ。あのチンピラどもが真面目に来るとでも思ってんのか?」
この時代はまださくらさんがタイムスリップ(日常的にいえばありえねェよな)してくる以前の頃で俺と成田は勉強をしなかった。

好きな教科はそこそこあるものの、本当に嫌いな教科はいつも来ていなかった。
俺の場合、嫌いな義理の両親と学校に居たくなかったため、居場所がなかった。
それによって深夜になっても帰りたくなかったため、外にいるときはサツに補導されたこともある。
いつもこうして基本は成田と一緒に居ることが多くなっていた。

そして、成田の口から出た『酒々井』と『久住』は俺らと同じ不良仲間。
何の因果で出会ったかは当時の俺は記憶が定かでなかったため、覚えていない。気がついたら傍らにいた。

「だよな!!」
そんなときだった。

「めんどくせーよ、学校なんて!!
あ〜あ、いっそのことなくなっちまえばいいのにっ!!」
突如でかい声で叫んだ成田の声にいち早く反応した人がいた。

「何言ってんの!! アンタみたいなハンサムボーイのためにあるんでしょうが!!」
バイクの音をブルンブルン鳴らして、女の人が歩道に寄る。まさかこの女の人が俺らが呼ぶ姐さんになるとは思いもしなかっただろう。

「あァ?」
「・・・いや、『ハンサム』と『学校』関係ないから」
「コホン」
姐さんは軽く咳払いする。

「古臭っ!」
成田が吹きながら笑い出す。

「何よ、その態度は!!」
姐さんが拳を握り怒鳴る。

「・・・いきなり俺らに話しかけてきて何の用だ」
「親でもねェのに『学校行け』なんて言われる筋合いはねェよ!」
成田が怒鳴る。すると、

バンッ!!

姐さんは成田の頬を平手打ちし、
「てめェ!!!」
成田を挑発させた。

「いきなり何しやがるっ!!」
成田は両手で姐さんの胸倉を掴んだ。

「待てっ!」
俺は背後から成田を押さえた。

「放せ、放せよ、飯田っ!!」
「何よ、かかってきなさいよ!! 中坊達!!」
姐さんはバイクから降り、臨戦態勢に入った。まさか俺らの相手になるんだろうか。

「はァ・・・」
姐さんの突発的な行為に俺もタジタジだった。

「女だからって手加減しねェからな。
放せ、飯田。こいつをぶちのめす!」
「だから待てって!!」
それでも俺は成田を封じる。いくら殴られたからって話し合いが必要だ。

そのうえ相手が女ならいきなり殴るのは良くない。相手が男なら俺は成田を止めずケンカに参戦する。

が、軟弱モノが相手なら放っておく。

「・・・アンタも、いきなり殴るこたァねェだろ」
「うっさいわね、口より手が出ちゃうのよ!!」
俺らと似ているな。

「・・・女なんだから、派手な行動するなよ。さっきからそのバイクの音うるせーしよ」
動く騒音女だ。早くきえてほしい。

「バイクってのはうるさいものなの」
「ほっとけよ、飯田。こんなペチャパイ女相手にするこたァねーよ」
姐さんはその言葉(おそらく胸のことかと)に反応し、

「ぎゃァァァ!!!!!!!」
何と、姐さんは成田に向かってバイクで突っ込んできた。前輪が成田の脚を踏む。

「胸のこと言うんじゃないよ!!」
俺はすかさずツッコミを入れた。

「アンタ、人殺す気か! こいつを殺したって血も肉もうまくねェぞ。
って、タイヤ! タイヤが踏んでるよ!!」
「つか、早く離れろ!! 脚が!! 脚がぁぁぁ!!!!」
姐さんはバイクをバックし、成田を開放する。

「今度あたしの体の悪口を言いなさい。今度は轢き殺すよ!」
いや、そんなことしたら免許、剥奪されるだろ。

「ほっとけよ、あんなやかましい女と一緒にいたら不機嫌になるだけだ。
行くぞ、飯田」
「・・・お、おう」
俺らは姐さんと別れた。が、

「ちょっと、アンタたち。学校はどうしたっていうのよ!」
「どゥ!?」
俺と成田が同時に反応する。

何と姐さんはバイクで追いかけてきた。

「しつけェ女だな。男から嫌われるぞ」
成田が叱咤すると、急に姐さんの態度が変わる。

「・・・」
「お、おい・・・」
不思議に思い、俺は姐さんに近づく。すると、

「ふうぇぇぇぇ〜〜〜〜ん!!!」
姐さんは俺にしがみつき、幼い女の子のように泣き出した。

「いないのよ、彼氏がぁぁぁ!!!!」
「何か、絡みづらい人だな」
さっきまでの威勢のいい成田でさえ、脱力している。いかにも友人が多くいなさそうな人だった。

「お前とアンタに振り回されてるよ、俺ァ」
ほとんどケンカで負けたことのない俺でも、女を相手(しかも口で)にすると勝てないかも。

「ねェ、どっかにいい男いないのぉぉぉ〜〜!!」
姐さんは俺の服で涙を拭い、俺のほうを見上げる。

「き、きたねェな・・・」
「・・・」
姐さんの視線が俺の眼に止まる。

「アンタ・・・」
「え?」
「・・・なかなかいい男じゃない」
姐さんの顔から湯気が出る。どことなく顔が赤い。

「あァ!?」
俺は姐さんから離れた。が、

「やだ、せっかくのいい男なんだから離さない!!」
姐さんの腕力はとてつもなくあって、俺は逃げることができなかった。

「おい、成田。なんとかしr・・・」
だが、成田の姿はそこにはなかった。
・・・逃げられた。

「・・・」
俺、どうなっちまうんだ。

「少し、近くの喫茶店で話そ」
「・・・」
もう、逃げられなかった。




結局、姐さんと2人きりで喫茶店に入った。

何か、先が思いやられる気でいっぱいだった。

「珍しいわね。名前がないなんて。みんなからは何て呼ばれてるの?」
「・・・基本的にない」
「へェ〜、ないの。だったら『春巳』でいいじゃない。かわいい名前なんだし」
俺は名前を思い出すことができなかった。しかし周りからは『飯田春巳』と呼ばれていたため、姐さんにはそう名乗った。

「・・・うるせェ」
この名前が本当に俺の名前なのかわからなかった。当時、小5で俺は事故に遭い、一切の記憶をなくしてしまったのだから。

美春しか覚えていないってのは幸か不幸なのか。

「あたしは月詠夏日(つくよみなつひ)。よろしく」
「・・・別によろしくって言われても」
勝手に知り合いにされている。俺はあまりいい気分でなかった。

「それにしても気が合いそうじゃない。『春』と『夏』だし」
「・・・は?」
「名前が」
「・・・あ、そう」
俺はコミニュケーションをなくすため、話を終わらせるようにした。

「ほら、アイスコーヒー飲みな。早く飲まないと薄くなるよ」
「・・・お、おう」
ただ、このアイスコーヒーは姐さんのおごりだというからただで飲ませてもらうのは何か納得いかなかった。

俺も何か返さなくてはな。

「どう、味は?」
「・・・ああ、うまい」
「そう、そりゃよかった!」
まあ、正直いうと味は普通のアイスコーヒーだが、ただで飲めるので俺は戴いた。

「あれ、そういえば『はるみ』って・・・」
と、姐さんがあることに気がついたみたいだ。

「『春巳組』っていうケンカ組のことでしょ」
な、何でそんなことを・・・。

「何で知ってんだよ! 俺らのことを!」
俺はコーヒーを吹き出した。

「たまたまバイクで倉庫裏を通ったときに、男どもが『出てこい、春巳組!!』って怒鳴ってたからね」
「・・・いるじゃないか、そこにいい男どもが」
「あたしはごつい男よりクールな男のほうがいいのよ!」
クールな男って、俺のことか?

まァ、兄貴みたいに女子に明るく対等に触れることもないしな。

「そうか、アンタが頭なのね」
「・・・別に俺が決めたことじゃねェ」
あの悪友3人(成田、酒々井、久住)が決めたことだ。

「でも、ハンサムなほうが売れるじゃない」
「・・・売れるってねェ、あんた」
できればそんなに名が広まってほしくはない。目立つのが嫌いだからだ。

俺は姐さんの会話から遮り、窓を眺めた。と、俺らをつけ狙っている不良らしき男どもがいた。(まァ、俺らも不良だがな)

「!!」

しかも先週俺ら4人で取っ組み合いになった奴らだった。

冗談じゃない、こんな喫茶店で見つかったらここでケンカになるじゃねェか。

場所が悪い。もっと人気のないところで。

「夏日さん。失礼します!」
「え、ちょ、ちょっと待って! もっと話が・・・」
「それどころじゃないんです!」
俺は店を出た。




ちっ、時間が悪い。奴らは10人だ。

今までケンカでの最高人数は4人だ。一度に10人はきついな。

「あ、頭! 春巳ですぜ」
「・・・何の用だ」
俺は自ら奴らに近づく。

「先週は酷い目に遭ったからな。今度はお前にいい目を遭わせてやる!」
くそっ、マジで10人はやべェかもな。

「待て、こんな人気の多いところじゃやりづらいだろ。場所を移動するぞ」
「ふん、いいだろう。そのほうが思いっきり暴れられるしな」
俺と奴ら10人は倉庫裏へ移動した。

「なかなかいいところじゃねーか。先週と同じところっつぅのも」
「先週と同じ目に遭わせてやるよ」
どこまでやれるかわからねェが、やるしかない!!

「全員かかれぇ!!!!」




成田は一足先に学校の屋上にいた。

そこには酒々井と久住がいた。そして、なぜか完全無口な男『椎柴』もいた。
この椎柴は俺ら『春巳組』には所属していないが、いつも俺らといる。
だが、心を許しているのは俺だけだったはず・・・。

「あれ、あの記憶すっからかん男はどうした」
酒々井が言う。

「それがな、あいつは女に捕まっちまったんだぜェ」
成田はここに逃げていた。

「マジか!? おい、聞かせろ、どんな奴だ、どんな奴だ!」
鼻の下を伸ばしている久住が食いつく。

「そんなに近づくな!」
成田と久住の間に酒々井が食い入る。

「落ち着けよ。その女はな、バイクスーツに身を包む怪力バイク女だ」
「は? 意味わかんねーよ」
「バイクスーツ!!」
久住はそこに反応した。

「それって食い込む系か?」
「アホ、そこに食いつくな」
簡単に説明すると、酒々井はスポーツ刈り、久住は変態男。
常に久住のボケを酒々井がツッコミを入れるのはある意味定番となっている。
椎柴は俺は「シバ」と呼んでいるが俺以外はあまり話さない奴だ。
顔はそこそこいい男だが女の子を寄せ付けないオーラを回りに出している。要は恐い男だ。

「・・・おい!」
と、そのシバが成田らを呼び止める。

「・・・聞こえるか、あっち」
成田ら3人は耳をすませる。

『オラァ!!』、『しばくぞ、テメー!!』等荒々しい声が飛び交う。
「おい、何かあるぞ、あそこに」
「行ってみるか、いい女いねーかな」
そしてこの男、久住は女とケンカも大好きだ。

「いるわけねーだろ、ケンカの真っ只中に」
バンッ!という拳銃の音も交える。少々震えながら成田が言う。

「い、今の銃って・・・飯田の・・・飯田のだよな」
椎柴が静かに言う。

「・・・春巳の悲痛な声がする」
その瞬間、辺りの空気が重くなった。

「行くぞ!! 用意はしたな」
用意・・・かつて俺ら「春巳組」を率いた元帥が託した物。
それは、俺らの名前が書かれた拳銃。拳銃の愛称なんて知らねェ。

「おうっ!!」
成田一同は階段を駆け下りた。

「・・・俺は関係ねェが、春巳のためなら」
シバも成田と同行する。





続く

あとがき
この辺りで「.5章」はハルの過去話を入れようかと思います。
6章はまだD.C.のヒロイン決めていません。
ことりは最後に残しておこうかと思いましたが、まだヒロインとストーリー決めてないんでやばいです。
最近、自分自身D.C.よりハルオリキャラを使ったほうがストーリーが進みます。

管理人から
また間が空いてしまいました、すみません。
新たなる新キャラ酒々井と久住、椎柴に月詠夏日が出て来ました。
過去の回想ってのは面白いですね。現代に戻った時に登場する可能性があるんですから。
それでは過去回想編全4話の始まりです。続きは近日中にアップしますね。



                                        
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