D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第4.9章
天枷教授のつれづれ日記「change to girl」B
「あ・・・あの・・・」

さっきから杉並先輩は俺の顔をじっと見つめたままだった。
視線は俺の目から一歩も動かない。
―――早くこの場から逃げ出したい。

「君から懐かしく感じるこのオーラは何なんだ」
「お、オーラ?」
「感じないかね、ワンコ嬢と遊んだあの日々を」
やばい!杉並先輩完全に俺が女に替わっていることをわかっている。

「わ、わんこじょう?私にはさっぱり・・・」
「そうですよ、杉並先輩は春菜ちゃんとは初めましてさんなんでしょ」
美春が鈍感でよかった〜

「春菜ちゃんはハルちゃんの親戚なんですよ」
「ほほう。そんで、当のハル坊は何処へ」
「だから俺の・・・」
杉並先輩が俺のことを『ハル坊』と呼んでいたので、危うく俺はいつものツッコミを出すところだった。

「どうした、君」
「い、いえ、ちょっと春巳君の真似をしようかなぁと思っちゃって」
俺は頭を掻きながら、舌を出した。
そう、これは冗談をした後のことりさんの真似だった。こうやって、みんなの真似を取り入れれば、俺の正体がわからないだろう。

「君、わんこ嬢と匹敵するくらいにハル坊を狙っているな。いつかはハル坊を、その自慢の容姿で攻めると・・・」
「な、何を言っているんですか!?」
「ま、これも新聞の一ネタに加えよう。春風が舞い踊るin風見学園、と」
気がつけば、杉並先輩の姿はなかった。

「ハルちゃん、親戚の春菜ちゃんにも手をつけてたのかぁ」
その時の美春の目は、まるで兄貴の浮気性を目の当たりにした音夢姉ちゃんを思い立たせるようだった。




あぁ・・・こんな格好じゃ、音夢姉ちゃんにも、ことりさんにも会えないよな。
俺はある階の廊下を歩いていた。前方からさくらさんがやってくるが、おそらくはさくらさんも―――

「君、ちょっといいかな」
いきなりさくらさんは俺のもとにやってきたので、驚いた。

「あ、はい」




俺とさくらさんは屋上にいた。
さくらさんは紙パックのジュースを飲み、俺に話しかけた。

「ねえ、ハルちゃん」
「え、わかってたんですか!?」
さ「うん、ボクを誰だと思っているの」
さくらさんは俺を向いて、微笑む。

「やっぱりさくらさんには隠し通せませんね。こうなったのも、全てはあのクソじじいのせいです」
さ「にゃはははは・・・散々だね」
「好きでなったわけでもないのに、何でよりによって俺が女に・・・」
俺の話に聞く耳持たず、さくらさんは俺の方を向いて、こう言った。

「ハルちゃん、この後ボクは、教授のところに行くつもりだよ」
「俺を、元の俺に戻すため・・・ですか?」
「うん、教授だけだと、ほら、何かと心配だからね」
にゃはは・・・とさくらさんは苦笑いをする。

「大変だね、普通の生徒だったのに、今日だけは転入生なんだから。
音夢ちゃんやことりちゃんとかに簡単に話すこともできないね」
「こうやって、安心して話せるのも、教授とさくらさんしかいませんよ。
あとの人たちには気軽に話せなくて、少しだけ鬱にもなっているんすよ。美春でさえ、教授の親戚という間柄という設定なんですから」
さくら「たまには、女の子の気持ちになってみるのも悪くはないと思うよ。
それで女心とかがわかるかもしれないし。美春ちゃんを傷つけたことだってあるでしょ?」
「ええ、数え切れないくらいに」
「普段何気に言っている言葉の中にも、毒はあるんだからね。それを、今日はボクからの宿題だよ」
「え、宿題?」

そんなこと言われたって。そんな答えの見つからない宿題出されても困るよ。

「いい、ハルちゃん。全授業が終わったら、すぐに研究所に向かうこと。
ボクと教授はハルちゃんの身体を戻すように、機械とかチェックしてるから」
ハル「わかりました」

しかし、俺は妙に視線をさっきから感じていた。
誰かからなのかはわからない。俺の気持ちを知ることができる力を持っていたことりさんなんだろうか。
そう思ったが、そんな力はとっくになくなっていたはず。そう考えると、誰なんだろう。




俺は廊下を歩いていた。野郎どもからの視線が飛び交う。何かことりさんになった気分だ。
そして鏡を見るなり、俺は凹んでゆく。だって鏡の向こうには、本来の俺ではなく、
一目惚れしそうなくらいにかわいく、そして胸のでかいねーちゃんがいるんだ。
そして未だに違和感がある女子トイレ。何でこんなことに・・・

「これがハル様主役の漫画?」
「そう、読んでみて」

廊下を歩いていると、なにやら、本の即売会がやっていた。
それに、さっき『ハル様』とか言っていたな。おそらくは俺のファンクラブの一員だろう。
俺は気になりだし、その即売会のブースに近づいた。

「あ、君も読む? すんごく面白いよ」
「う、うん」

その漫画の絵は、やはり少女マンガのようなふわりとしたものだった。
そのストーリーには、あるかわいらしい女の子が店をやっていて、1人の客がその女の子に注文を言う。
しかし、ドジっこな女の子は皿を割ってばっかり。

「はうぅぅぅ・・・」
その割れる音に徐々にイラついてきた客は、その女の子に近づき、

「さっきからうるせェんだよ、ボケェ!」
と、客が怒鳴る。

「ごめんなさぁ〜い」
泣きじゃくりながら謝る女の子。そこへやってきたのが、

「おいおい、何事だよ」
何と俺がやってきた。

「誰だ、この店の店長か。ったく、お前は店員にどういう教育をしてんだ」
「ちゃんとした教育をしています。そして、こいつは、俺の妻・・・」

・・・。

「ハルく〜ん」
「また皿を割ったのか。しょうがないなぁ」
その中の『俺』は、女の子の髪を撫でながら、笑顔で優しく注意していた。

「おい、店長。そういう甘やかしが店員の甘えを生むことになるんだぞ。もっとビシっと指導しろっ!」
さらに客が怒鳴る。

「いえ、こいつはこれでもがんばっているんです。毎日皿は割るけど影でかんばっているんですよ、この店の看板娘になれるように。
あらゆる雑誌にも載り、時にはグラドルにも、そしてボランティア活動にも」

『俺』はその女の子をひしっと抱きながら、客に言う。

「ま、まあいい。最後のボランティア活動は関係あるのかわからんが・・・」

客が出て行った後、

「だめじゃないか、お客さんを怒らせちゃ」
「ごめんね、今度は皿を割らないように気をつけるから」
「まぁ、お客さんの大半は、君のその笑顔で和むんだけどね。いいか?」
「え、ちょ、ちょっと、こんなところで・・・」
『俺』は女の子の顎を引き、

「いいだろ、誰も見てはいないさ」
「ええ・・・んっ・・・」

軽く互いの唇を重ねた。
女の子は初めこそジタバタしていたが、力を抜き始め、目を瞑り、俺の背中に腕をまわす。
女の子の頬が徐々に紅潮し始めていた。
そして、唇を引き離すと、互いの唾液が糸を引いていた。

俺は我慢ができず、本を閉じた。

これ・・・限界だ・・・。放送コードギリギリだ。

「君、熱心に読んでいたね」
「え? そ、そうでしたか」
「君も『ハルちゃんファンクラブ』に入っているの?」
「い、いえ、この初音島には来たばっかりで、まだ何も部活には・・・」

っていうか、よく看板を見ていたら、小さく『15禁』と書かれていた。
俺の知らないところでは、こんなものが出回っていたのか・・・
何か、ここにいられなくなってきた・・・
すたすたと俺は、その即売会から立ち去った。




やはり視線が感じる。俺は思い切って後ろを振り返った。
すると、よく見る顔の娘がいた。

「こま・・・」
「・・・」
おおっと、そうだ。この体の、春菜としての状態では、こまちちゃんを見たことはなかったんだっけ。
俺の1つ学年下の葛西こまちちゃんだ。

「あの・・・」
「わ、私?」
「あなた、ハル先輩とどういった関係なんですか?」
「は、春巳・・・君と?」
未だに自分の名前に『君』付けするのが違和感ある。
とはいえ、俺の存在を隠し通さなければならないんだよな。

「単なる親戚だけど・・・」
「そうですか、でも、あなたから感じるオーラが何となくハル先輩と一緒でしたから」
「お、オーラ・・・?」
もしかして、感づいてる?
もし、ハルが今どこにいるのかと訊かれたら、発熱で休んでいるってさくらさんから言われたけど、
こまちちゃんの場合、俺の部屋まで駆けつけるだろうな。

「ハル先輩、何かあったんですか?」
「うん、ちょっと熱を出しちゃってね」
「私が、プールに誘ったのがいけなかったのでしょうか」
先週プールに行った後だから、やっぱりそう思うよな。
でもホントは熱なんて出してはいない。現に俺は、ここにいるんだから。体は変わっちまったけど。

「大丈夫だよ、春巳君はその日、寝るときにちゃんと掛け布団をかけて寝なかったから、風邪を引いたんだよ」
「そう、ですか・・・」
プールのお礼、言ってなかったな。

「春巳君から伝言があるんだけどね、『プールに一緒に行けて楽しかった。また今度暇があれば相手になってあげるよ』だって」
また今度って、これじゃ周りから誤解されるな。

「ハル先輩が・・・うれしいです^^」
「楽しいよね、時々プールに行くのも」
「貴方も春巳君と行ったことあるんですか?」
「5、6年前にね。そのころの春巳君は結構おとなしかったよ、朝倉先輩とは違って」
自分のことをこうして言うのも、やっぱり違和感がある。

「ハル先輩って、女の子には誰にでも優しいですよね。
あんな大きいファンクラブがあって大人数の女の子の相手が均等にできるなんて、すごいです」
「そ、そうかな」
思わず俺は照れてしまった。

「でも、少し残念です。私はハル先輩が大好きだっていうのに、同じ想いを持っている女の子が大勢いると思うと、
私の想いは届くのかなぁって少し心配してしまいます」
「・・・」
「確かに好きな人は誰しもいると思います。でも・・・」
「でも?」
「いえ、なんでもありません。すいません、愚痴っぽくなってしまって」

そうか、みんなはそう思っていたのか。
ファンクラブ員は80人を超えたんだったっけかな。
その80人はみんなとはいえないが、俺のことを好きと思っている。『好き』というのは好意ではなく、LOVEという方のでだ。

「春巳君はみんなの相手になるとき、その相手が不快感を持たないように、ちゃんと話を聞いているんだよ。
自分を好きになっている女の子を傷つけさせたくない。春巳君はそう思いながら、接しているんだよ。美春ちゃんの場合は別だけど・・・」
「さすが、親戚ですね。春巳君の気持ちがそこまでわかるだなんて」
やべっ、後半から素で説得してた。あくまで役作り・・・

「じゃあ、私はこれで」
「ありがとうございます。またこうして話す機会があるといいです。貴方は、私にとって、いい相談相手になれそうです」
相談相手か〜、この体で会うのもおそらく今日限りだろうな。
次に会う日なんて、ないだろうし・・・





続く

あとがき
どうも、ハーディス@海です♪
何か、どっかで見たことあるんですよね、ああいう少女漫画の展開。
たまたまNANAを見たのですが、シングルベッドに裸で男女が寝ていたシーンがありました。
最近の少女漫画も、少しえっちぃのが増えましたね。
あと、のかーびぃさんお気に入りのキャラ、こまちを出しました。
このシリーズの唯一の後輩キャラなので、後輩関係だと、結構出てきそうです。
あ、そういえば、全然純一出してないや^^;

管理人から
最近の少女漫画はちょっとどころかかなりストレートです。
正直同年齢の女の子があんなの読んでると小学生の男の子は思ってないでしょうね。
それほど最近のはマジで15禁レベルギリギリです。
それはそうとこまち出て来ましたね〜。楽しみにしてたので嬉しいです♪
純一はまぁ蚊帳の外ってことでw



                                        
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