D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第4.5章
「怪我・・・」B
翌朝、俺は違和感ある朝を迎えた。
何せ、ことりさんの家にいるからだ。

ことり「おはようございます、ハルちゃん」

ことりさんが俺を起こしに来た。

ハル「お、おはようございます」
ことり「やっぱりハルちゃんは、朝倉君とは違って、目覚めがいいですね」
ハル「まあ、兄貴はあれは寝不足みたいなものですからね」




俺はことりさんから借りた寝間着姿でそのまま階下で朝食を迎える。

暦「新鮮な朝だな」
ハル「そうですね、ことりさんのとこで朝を迎えるなんて、ある意味一種の願いでもありましたから」
ことり「またまたぁ」

冗談のように、ことりさんは笑う。

ハル「ホントですよ、こうやっていると、俺の新妻に、義母、妹ってみたいな感じで」
ことり「え、新妻だなんて・・・(照)」
暦「ちょっと待った! 義母ってまさか・・・」
ハル「ええ、暦先生のことですよ」
暦「私はオバハンじゃないわい!」
ハル「しょうがないでしょ、今この家には4人しかいないんですから」

その後、暦先生の痛い拳がガツンッと俺の脳内を貫いた。
その横でことりさんは苦笑いをしていた。
ちなみに、まだ美春はことりさんの部屋でぐ〜すか寝ていた。




ハル「そういえば、今日って、体育があったよな、美春」
美春「うん。でも美春は出れません」
ハル「当たり前だ。まだまだ完全復活になってないからな」
ことり「その体育は何時間目なんですか?」
ハル「最後の授業です。丁度美春が肉離れを起こした授業です」
美春「もう、それを言わないで〜」
ことり「そ、そうなんですか。もしかしたら、今日だけ被るかもしれないですね」
ハル「なぜですか?」
ことり「実は、今朝、お姉ちゃんが電話で日本史の先生がお休みだって聞きましたから。
それでその授業は体育になるかと・・・授業数も振替休日とかで潰れていますし」
ハル「・・・あり得ますね」

何か、昨日からことりさんと一緒の時間が多いなぁ〜。

美春「うわぁ〜い、白河先輩と一緒〜」

ま、こいつの場合、体育は見学だが・・・。




その最後の授業の体育、跳び箱。

成田「おい、アイドルがやってきたぞ」

俺はその成田の声を聞き、体育館のドアからことりさんのクラスがやってきたことを知る。
おお〜と歓声が響く。

ハル「ふっ、こりゃ美春やことりさんに1つかっこいいとこをみせねェとな」
成田「それが時に、悪夢となるぞ」

笛の「ピッ」という音と共に、俺は跳び箱を飛ぶことにした。
張り切って飛ぼうとする俺。
ただ、かっこいい所をみせたいという一心だった。
ロイター板を思いっきり踏み、高々と飛ぶ俺。しかし・・・

ハル「あ、あわわわわっ!!」

何と、普段飛ぶ高さを軽く飛んでしまった。8段あるものを10段を飛ぶくらいに。
やべっ、これでは着地に失敗し、頭から落ちるかもしれない。
何としてでも、手でそこを踏ん張らなければ!
俺は何とか両手を跳び箱につける。が、次の瞬間、

バキバキボキッ!!

ハル「え・・・」

聞いたこともない音が、俺の体内に響く。
そのまま、俺はマットの上に背中から落ちる。
俺は辺りを見回す。

男子生徒「おい、大丈夫か? 背中から落ちてよ」
ハル「あ、ああ」

誰も気づかれていないようだ。
俺は何事もなかったように、もとの位置に戻る。

ハル「・・・」

俺は呆然と、左指を見つめる。
特に痛みもないし、しいていうなら、力を入れるときだけ痛むだけだ。
これなら、もう1回くらいはできそうだ。

成田「おい、本当に何ともないのか。あんな落ち方をして」
ハル「ああ、特に痛みはないしな」

俺の番が回ってきて、俺は「台上前転」をすることにした。
俺は今度も同じように、ロイター板を思いっきり踏み、両手を跳び箱につける。

・・・ミシッ。

ハル「い、痛て・・・」

俺は何ともなかったかのように、着地する。
が、やはりおかしい、力を入れるときだけ、異様に左指が痛む。
俺は左指を動かしてみた。

・・・!!

何と、小指が奇妙なことに左右に動いている。
普通前後に動くのが普通なのに、なぜ前後に動かず、左右に動くのだ。
それに、何か、左指がとても冷たい。
俺の表情から笑顔がすっと消える。
周りでは、笑いが常に起こっている生徒がいて、笑いが起きているのに、なぜか俺は笑えなくなっていた。
・・・。
俺は保健室に行くことにした。
左手を右手でそっと添えて、体育館を後にした。
その時、ことりさんが俺の異変に気づいていたことなんて、俺はわかっていなかった。




一人寂しく保健室の中に入る。

ハル「失礼します・・・」
音夢「? ハルちゃん!?」

音夢姉ちゃんはやはり美春の時と同様、驚く。

音夢「怪我、したんだね」
ハル「はい・・・」
音夢「見せてみて」

音夢姉ちゃんに左指を出す。
音夢姉ちゃんは俺の手をそっと触り、すぐに俺に言う。
レントゲンで指の状況を確認した後、

音夢「ちょっと! 骨折してる可能性あるよ」
ハル「え・・・骨折・・・?」
音夢「今すぐ病院に行きなさい」
ハル「とはいっても、こんな体育着じゃ・・・」
音夢「そんなこと考えてないで、早急に病院に直行! もちろん、患部は下げちゃダメだよ」
ハル「は、はい、わかりました」

俺は急いで教室に戻り、病院に急行。
美春とは違って、脚には問題はないから走れる。ただ、全速力で行っては、患部に支障を来すこともあるので、チョロチョロと小走り程度。




そしてその結果・・・

骨折・・・

そのうえ、手術ほどではないが、完全に折れている骨はヒビが横断しているとのこと。
左指を包帯でグルグル巻きで固定して学園に戻ってきた俺は、このことを音夢姉ちゃんに伝えた。そしてこの骨折した理由も説明した。

音夢「もう、あんまり目立つようなことをして、ちゃんと注意することを忘れるんだから。
しかもことりに見られたいからってそんなことをして、逆にことりや美春が心配するでしょ!」

珍しく音夢姉ちゃんが俺に一喝する。まさに『お姉ちゃん』らしい行動だ。
とはいっても、こういうことが起きていたら全然珍しくはない。

ハル「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

・・・俺、美春とやっていたことが一緒だ。
ふぅ〜とひと息ついた音夢姉ちゃんは、

音夢「今日はすぐに帰るつもりなの。ハルちゃん、一緒に帰る?」
ハル「え、ええ」
音夢「それに、部活も無理でしょ。その荷物も持っててあげようか」
ハル「お願いします」
音夢「私も一応、ハルちゃんファンクラブの一員だもんね」

やはりハルちゃんファンクラブのおかげだ。
いや、よく考えてみれば、片手と肩に提げておけば、何とかなるな。
しかし、俺は音夢姉ちゃんを止めることはなく、荷物を音夢姉ちゃんに任せた(もちろん、重い部活の荷物は俺が肩に提げていたが)

音夢「重そうだけど、大丈夫?」
ハル「大丈夫ですよ。右半分なら何ともなっていないんですし」
音夢「でも、その荷物が左指に当たったら、危ないよ」
ハル「でも、こんな重いもの音夢姉ちゃんには無理だよ」

と、俺の前に1人の女性が現れる。
ことりさんだ。

ことり「手伝いましょうか、ハルちゃん」
ハル「え、手伝えって、この荷物とても重いんですよ」
ことり「なら、今音夢が持っている荷物のほうを、ハルちゃんの手に持たせて、肩に提げてある重い荷物を私と音夢で持ちますよ」
音夢「あ、それいい提案ね」

そうか?、と思ったが、そのほうが俺の左指には支障を来さないだろうと思った。
俺は荷物を下ろし、音夢姉ちゃんから荷物を受け取り、重いほうを音夢姉ちゃんとことりさんに渡す。

ことり「じゃあ音夢、一緒に持ち上げよ」
音夢「うん」

音夢姉ちゃんとことりさんは両手で俺の部活バッグを持ち上げる。
とはいっても、2人がかりで丁度よく、でも少し辛そうだ。

音夢「お、重い・・・」
ことり「ハルちゃん、いつもこんな重い荷物を毎日学校に持ってきているんですね」
ハル「初めは大変でしたけど、もう楽なもんですよ。慣れちゃいましたから」

しかし、体がとても軽いな。いつもほとんどの日はこの荷物を持っていたけど、
いざ持ってくれる人がいると、俺の体がまるでなくなっているみたいだ。
今度から付き人を頼もうかな。いや、やっぱり俺の筋力が衰えちまうからな。これは、俺が持ち続けることにしよう。

ハル「音夢姉ちゃん、いつも買い物をしてるんでしょ。なら、それで鍛えた筋力でがんばってくださいよ。こんくらいでへばってどうするんですか」
音夢「もう、うるさい。買い物っていったって、こんなに重い荷物になるほど買ってないよ」
ハル「まぁ、そこは兄貴か美春が付き添いでいますからね」

俺が兄貴の名を口にした途端、一瞬だけだが、ことりさんの表情が曇ったように見えた。

ハル「・・・? ことりさん?」
ことり「ん? え、あ、お、重いね。さすがに私もそろそろギブアップかな」

やっぱりことりさん、兄貴と何かあったに違いない。
でも俺はあえてそこはいじらない。それくらいのこと、兄貴とことりさんの2人で何とかしたほうがいい。
俺が解決させたって、単なる邪魔者にすぎない。

ハル「音夢姉ちゃん、ことりさん、俺の家までまだまだ距離がありますよ」
音夢・ことり「えええ〜〜〜!!」
ハル「ほら、ファイト、ファイト!!」

俺は気合を入れるポーズをとったが、音夢姉ちゃんとことりさんはもうバテている。
2人が持っている俺の荷物は、地面すれすれのところだった。これで引きずられたら、俺の荷物に傷がつくな。
音夢姉ちゃんとことりさんは俺の荷物を置いてしまった。

ハル「・・・わかりました、やっぱり俺が持ちます」
?「もう、ずるいです!」
ハル「ん?」

背後から声が聞こえた。俺は後ろを向いた。

音夢「美春」
美春「もう、どうして美春に言わないんですか。
ハルちゃんの手助けくらい美春にもやらせてくださいよ」
ハル「だってお前、まだ脚のほうが治ってないんだろ」

すると、美春は松葉杖を放し、

美春「ほら、自力で動ける〜」

まだもう片方の足で支え代わりにはなっているが、肉離れを起こした脚はもうほとんど良くなっている。

音夢「肉離れはそれほど期間が長くないからね」
ハル「そうだったんですか」
音夢「骨折はリハビリをして1ヶ月〜2ヶ月くらいかな」
ことり「そうだ、ハルちゃん、リハビリは?」
ハル「・・・リハビリ?」

何か、やな予感がしていた。

美春「そうだ、いずれはハルちゃんもリハビリをしなければならないんですよ」
ハル「・・・」
音夢「いつまでも固定していても、かえって指に悪影響を与えるだけだから、
なるべく早くその付属のプラスチックを取って、リハビリを始めたほうがいいよ」
ことり「その時はまた、私たちが付きあいますよ」
美春「だって、私たち・・・」

音夢姉ちゃん、ことりさん、そして美春は3人で手を繋ぎ合わせ、

音夢・ことり・美春「「「ハルちゃんファンクラブだもんね〜」」」

と、高々と手を上げた。

ハル「・・・・・・」

俺はただただ黙り込むばかり・・・。

ハル「いつのまに、そんな練習を・・・」
美春「もう、音夢先輩。もう少し元気よくやってくださいよ」
音夢「だって、恥ずかしいんだもん」

音夢姉ちゃんは手で顔を隠しながら言った。
あんな大声で言っていたら、言われている俺のほうも恥ずかしい。
全く、美春はノーテンキなんだから。

ことり「やってみれば、それなりに楽しいですよ」

まぁ、ことりさんはその中間的な感じかな。

ハル「でも言われている俺は、とても恥ずかしい・・・」

つーか、俺のファンクラブが美春によって、遊ばれている気がするような・・・。

ことり「あ、そうだった。ハルちゃんの荷物持たないと」
ハル「いいっすよ、こっちの重いのは俺が持ちますから」
ことり「でも、片手でどうやって持つんですか?」

俺は、肩に重い荷物をかけ、鞄は右手で持った。

ハル「こう、この重い荷物を肩にかけて、こっちの鞄は手で持って・・・」

俺はその状態で歩いた。しかし、肩にかけている荷物は徐々に落ちてくる。

ハル「・・・持ちにくいですね」

普段は肩に重い荷物をかけ、鞄は左手で持っていたため、右半分で荷物を持つということはなかった。
そういえば、肩にかけている荷物は歩くと段々、肩からずり落ちてきていた。

美春「やっぱり美春達が持ちますよ」
ことり「え、また持つんですか?」
音夢「はぁ・・・」
ハル「美春、お前その脚で大丈夫なのか?」
美春「うん、休憩を入れながら歩かないと、脚がもたないけど」
ハル「だったら、尚更やめろ。俺の荷物の重さによって、余計に脚に悪影響が出る」

美春はしぶしぶ、身を引く。

音夢「ねえ、ハルちゃん」
ハル「何ですか?」
音夢「私がそっちの軽いほうの鞄を持って、重い荷物をハルちゃんが持ったら?
それなら肩からずり落ちても、ちゃんと右手で何とかできるでしょ」
ハル「あ・・・」

そうだった。俺ってそんなことも気づかなかったのか。
俺の脳って、学力がよくても、普段はあまり頭を使ってないんだな。

ことり「私も同意です」
ハル「わ、わかりました。じゃ、お願いします」

俺は音夢姉ちゃんに、手に持っていた鞄を渡す。
しかし、改めて、こうしていると・・・―――

ハル「う・・・うぅ・・・」

俺はいつのまにか視界が涙で歪んでいた。
いくら涙を拭っても、どんどん出てくる。

ことり「ど、どうしたんですか?」
ハル「俺・・・嬉しいんです・・・。・・・こんなに・・・俺を大切にしてくれている人が・・・いることを・・・」

美春も俺と同じ気持ちになったんだな。

さくら「そう、こういう時に親友がいてよかったって感じるんだよ」
ハル「さくらさ・・・さくら!」

気がつくと、美春の傍らに笑顔で立っているさくらさんがいた。
俺は一応、さくらさん本人からの『さん付け禁止』のことを守っていた(ただし、学校内では先生と言うこと)

さくら「君は、あの時のハルちゃんとは違う。親友をだれよりも信頼している君は、親友からも君のことを信頼している。
でも、あの時の君は、親友の存在すらなかった。
自ら親友を欲しがらない君はおそらく怪我をしていても、こんな風に親友からの手助けはなかったはず」

そしてさくらさんは俺の顔を見て、微笑みながら、

さくら「だから、いつまでもこのことを忘れないんだよ。
君が骨折したことはある意味、神様から『友達の大切さ』を問われているんだよ。
神様からの宿題だね」

そう言った。
俺はさくらさんの顔を見た後、音夢姉ちゃん、ことりさん、美春と顔をみつめる。

ことり「私たちはいつでもハルちゃんの手助けを致しますよ」
美春「そうそう、何でも手伝ってあげるよ。勉強とか、荷物も、着替えも、お風呂も」
ハル「後半あたりは、ちょっと恥ずかしいですね」

俺・・・マジ感動です。
昔の俺は、誰も俺のことを見てくれなかった。俺に話し掛けようともされなかった。先生からも嫌がられていた。
でも、今はどうだろう。みんな、俺を大切にしてくれている。
俺をいつまでも見てくれている。気軽に話し掛けてくれる。先生もみんな、生徒共々仲良くなっている。
あぁ、平和だ。心が落ち着く。いつでも心が和む。笑顔が溢れている。
友達って、最高だよ―――。
今日は、いい教訓を覚えたな。あと、助け合うことも大切だ。

音夢「あと、料理も作ってあげるよ」

音夢姉ちゃんの発言で、一瞬で冷めてしまった。

ハル「・・・いや、それは勘弁願いたい」
さくら「み、右に同じ」
美春「同じくです」
ことり「私も同意見です」
音夢「ちょっと、何でみんな青ざめているわけ!?」
ハル「だって音夢姉ちゃんの料理って、ある意味罰ゲームだし・・・」
さくら「ハルちゃん、それ例えが悪いよ」
音夢「そんなに私のって、まずいの?」

顔色を悪くした俺、美春、さくらさんはほぼ同時に頷いた。

美春「食あたりになった朝倉先輩を何度も見ました・・・」
ハル「俺、翌日下痢になりました」
さくら「ボクなんか、寝込んだよ」
ことり「あ、あはは・・・」

ことりさんはもう苦笑いせざるおえなかった。

ハル「とにかく、生死の狭間に立たされますよ」

そして音夢姉ちゃんは、いつもの兄貴に対する不気味な笑みを俺にも向ける。

音夢「ハルちゃん・・・この借りはリハビリで返してあ・げ・る♪」




その後、骨折は意外とすぐに治った。
しかし、音夢姉ちゃんによるリハビリは、注射よりも痛かったものです。

ハル「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!」
音夢「ほら、動かないで」
ハル「お、折れますって! 完治時期が延びちゃいますよ!」







あとがき
どうも、ハーディス@海です♪
これは指を骨折した話です。
肉離れとは違って、骨折は初めは痛みなんてありません。
しかし、徐々に痛みが込みあがってくるんです。
そして、とても痛いです。
私は3週間でプラスチックを取ったのですが、その後のリハビリがとても痛かったものです。
その最中に、冬コミでヒートアップしました^^;

管理人から
レントゲンって保健室なんかで取れましたっけ?とどうでもいいトコが気になった、のかーびぃです。
跳び箱なんか最後にしたの小学校の頃の話ですね。ちなみに7段が限界でした。
骨折にも色々種類がありますよね。粉砕骨折とか考えるだけで恐ろしいです。
しかしまぁ、ただの骨折にしろそうそう起こることじゃないですよね。
とりあえず運動不足が祟って、将来骨粗鬆症が原因で骨折しないようにはしたいもんです。
とりあえず4.5章は終了です。まだ続きも頂いてるので後日掲載させて頂きます。



                                        
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