それは、俺が記憶を完全に取り戻し、少し経った日のこと。
まだ記憶を取り戻したばかりの俺のクラスに、転入生が入ってきた。
ハル「お、お前!?」
成田「い、飯田! お前、こんなとこで何してんだ」
ハル「それはこっちのセリフだ。それと、俺の名字は飯田じゃない。『天枷』だ」
やはり相変わらずだらしのない制服の格好だった。
すかさず担任がそれを注意するも、成田は言うことを聞かなかった。
そんな俺と成田の会話を美春はぽか〜んと聞いていた。
何でこいつ、こんなところに入ってきたんだ?
そして、このことがなぜかさくらのクラスに知れ渡り、
さくら「ええ、成田君、こっちに来ちゃったの?」
さくらも俺らのクラスにやってきた。
成田「あァ、そうですよ」
だが、さくらが更生させるも、さくらだってこいつを更生するほど暇ではない。
どうしたことか・・・。
ハル「お前、あの時と全く変わらんな」
成田「そういうお前は変わりすぎだ。授業をサボり続けていたんじゃねぇのか」
ハル「成田、頼むから大きな声でそれを言わないでくれ」
俺が昔、悪だったことがわかってしまったら、みんなが俺と目が合う度に相手ビクビクするだろう。
昔の俺と、今の俺は違う。
さくら「あ、そうだ」
と、さくらが1つ案を思いついた。
ハル「どうしました?」
さくら「一か八かだけど、ここは杉並君に任せよう」
ハル「は、はぁ? どう見たって、杉並先輩に合う相手じゃありませんよ」
俺はクラスの中で話していたため、先輩であるさくらには敬語で喋った。
さくら「でも、杉並伝説によると、杉並君が相手をしている不良生を数分でガリ勉君になるという、新手な技があると噂で聞いたんだけど」
ホント、杉並先輩って不思議な人だよな・・・。
杉並「俺を呼んだか?」
ハル「げっ」
杉並先輩がいつのまにか俺の目の前にいた。
彼は本当にいつどこに現れるかわからない。
さくら「うん、この子なんだけどね・・・」
さくらは成田を杉並先輩の前に立たせた。
成田「俺に気安く触るんじゃねーよ」
杉並「ほぅ〜、この男がどうかしたか?」
さくら「杉並君のあの技で、この子を更生してほしいんだよ」
杉並先輩は成田の容姿をしばし見ておいて、一言。
杉並「ふん、たやすいことだ」
ハル「え?」
成田「?」
そう言った後、杉並先輩は成田をどこかに連れて行ってしまった。
成田「オイ! こら、放せ!!」
杉並「逃げたければ、力ずくで逃げてみろ。はっはっはっはっは!!!」
こうやってみると一体、どっちが悪者なんだ・・・。
そして、数分後・・・
成田「さあて、これから楽しい授業でも始めようじゃないか」
成田はまるで見違えたかのように、制服の服装がキリッと決まっていた。
それはまるで、杉並先輩のように・・・。
ハル「・・・あ」
俺は絶句した。
杉並「な〜んだ、やはり世の不良男はこんなものだったか」
杉並先輩はあの不良な成田をどうやって更生したのかは、誰も知らない。
ハル「お前、覚えてないのか?」
成田「何がだ」
ハル「だ・か・ら! 杉並先輩がどうやって更生させたかだ」
成田「お前に教えるほど大したことではない。
杉並お師匠のおかげでこうして今の俺がいるんだ。杉並お師匠には日々感謝の毎日だ」
はぁ?
こいつと話すと、時々ややこしくなる。
やはりそれこそ杉並先輩と話すときと同じように。
さくら「やっぱり杉並君の新手の技は誰もわからないんだね」
ハル「全く、本人には言えないが、ややこしい奴が増えたもんだよ」
それから3日後、確認テストが帰ってきた。
さくら「じゃ、返すよぅ。天枷春巳君」
ハル「はい」
さくら「すごいね、98点だよ」
やった! これでトップは目に見えている。
さくら「天枷美春さん」
美春「・・・はい」
次は美春のテスト結果なのだが・・・
美春「うぅ・・・」
美春は自分のテスト結果と俺のテスト結果を見るなり、悲しい顔つきを見せていた。
そういえば美春は、テストが苦手だったんだっけ?
やべっ、俺の点数はあまり美春にはみせないほうがいいな。それに美春にテストの結果を聞くのもやめておこう。
それに、テンションの低い美春と生活していると、なにかと問題あるし。
さくら「成田君」
成田「ふむ」
さくら「クラストップだよ。おめでとう☆」
成田の結果を見てみると、全教科が全て満点だった。
こいつ、どこで勉強してんだ。それに最近、杉並先輩と怪しい動きも見せているし。
成田「残念だったな、ハル男」
ハル「勝手に変な名前をつけるな! 俺の名は『ハルお』じゃねぇ」
成田「今回のトップも俺だ。まぁ、己の勉強不足に後悔するんだな」
ハル「はァ?」
お前が勉強しすぎなんだろうが!
クスクスとさくらは、俺と成田の1シーンを見て笑っていた。
と同時に、気のせいか、俺の隣で美春のため息が聞こえていた。
その後、俺はさくらと図書室にいた。
ハル「あの・・・」
さくら「ん、何?」
ハル「俺、貴方にはどう呼んだほうがいいのかわからなくて・・・」
それは、俺は『さくら』と呼べばいいのか、どうなのかわからなかった。
一応先輩というわけだし、それに学校での身分だって先生と生徒だ。
先生にタメ口で言えるのはせいぜい中学までだろう。
さくら「別に、さくらで構わないよ」
ハル「そう・・・ですか」
さくら「駄〜目、昔のようにボクにはタメ口でもいいんだよ。あ、でもそれはプライベートでね。学校の中ではちゃんと先生と呼ぶんだよ」
ハル「あぁ、はい」
さくら「ねぇ、ハルちゃん」
ハル「はい?」
さくら「なぜ君はボクのこと『さくら』って呼び捨てにしたか覚えてる?」
ハル「ええ、もちろん覚えてま・・・じゃなかった。覚えてるよ」
それは、俺が美春の記憶を借り、俺の記憶を取り戻した時(美春編参照)の直後だった。
音夢「ホントよかったね、ハルちゃん!」
ハル「はい、この通り、記憶も完治です」
美春「ハルちゃん、私もどうやって戻ったのか知りたかったよ」
美春は俺と一緒に眠っていたため、なぜ俺が記憶を戻したのかはわからなかった。
ハル「んで、さくらは?」
音夢「さくらちゃん? さっきまでここに居たけど・・・」
俺はさくらに感謝の言葉を言わなければならない。
こうして記憶が戻ったのもさくらのおかげだ。
ハル「さくらの家に行かなきゃ!」
俺はさくらの家に行った。
さくら「は、ハルちゃん」
ハル「さ、さく・・・」
やっぱ言いにくい。あの当時のままの容姿のせいか、本人の目の前だと、自然と昔の呼び名になっちまうな・・・。
さくら「やっぱ呼びにくいんだね。そうだもんね。ボク、全然あの時から成長してないんだもん」
さくらはどこか寂しげな瞳をしていた。
記憶がまだなかった時は、普通に『さくら』と呼べたのに、記憶が完全に戻って、実質的には俺より年上のさくらにどう呼べばいいのか迷ってしまう。
ハル「え、ええ。それに、今になって丁寧な口調も慣れないし・・・」
さくら「うん・・・」
ハル「ごめんなさい」
さくら「どうしてハルちゃんが謝るの? 謝る必要はないと思うんだけど。いくらでも小さい時のハルちゃんみたいに呼んでもいいんだよ」
ハル「いえ、俺が不良だった時、どれくらいさくらさんに暴言を吐いたかと思うと・・・」
ふいに俺の孤独だった頃が蘇る。
そりゃ、呼び名でのことでもさくらには迷惑をかけたかもしれない。
でも、それ以上にあの頃の俺を説得した、さくらにどれほど迷惑をかけただろう。
俺はまた涙が流れそうになった。
するとさくらは両腕を開き、こう言った。
さくら「ハルちゃん・・・。いいよ、ボクの胸に飛び込んできなよ。そして思う存分、気が済むまで泣いてね」
たまらず俺はさくらの中で涙を流し続けた。
小さい時は自分は甘えていたけれど、甘えだって時々は必要だ。
あぁ・・・なんて俺はアホな奴だったんだろう、他人をあれほど厄介なやつだと思って。
特にさくらは俺を逞しく、そして心優しき男の子に戻そうとして、そのうえ、勉強を教えてくれたのに・・・
俺はそんなさくらに向かって暴言を・・・。俺はそう思うと、どんどん自分が罪深き男だとしみじみ思った。
そのうえ、さくらを見ていると、さくらは外見は少女だけれど、そのときだけ優しいお姉ちゃんに見えた。
俺は小さいさくらの胸の中で泣きわめいた。
俺は音夢姉ちゃんから『勇気』というのを手に入れた。
そしてさくらからは『希望』というのを手に入れた。
でも、不良だったときにも手に入れたものがある。
それは『自分の筋力』だ。
喧嘩をするほどじゃなかったが、悪い奴には俺は立ち向かえそうな気がする。
昔、音夢姉ちゃんに助けられたこともあったけど、男としてそれは情けない。
今度は俺が美春や音夢姉ちゃん、そしてさくら達を守る必要がある。
どんなことがあっても、少なくとも俺の力も活用してほしい。
俺はさくらのことはこれからも『さくら』と呼ぶことにした。
別に、日常のことであまり気にしないで、普通に過ごせておけばいいんだ。
そういえば、美春からは何か手に入れたものあったっけ?
お互いに想いつづけていたから、『友情』だろうか? それとも『愛情』なのか?
まあ、細かいことは気にしなくてもいい。今はさくらのことを考えておけばいいんだ。
あんな子供みたいなさくらでも、心は決して子供ではない。
いや、俺のほうがガキなのかもしれない。
何よりさくらは、俺の人生を変えてくれたんだ!
だから、成田が言ったように、俺も日々、さくらには感謝の気持ちを持たなくてはならない。
これからもよろしくお願いします、芳乃さくら・・・さん。
完
あとがき
どうも、海です♪
第三章、完結しました。
さて音夢、さくら、美春のストーリーが終わり、ここからは四章に続く・・・と、思いきやその前に3.5章があります。
3.5章は外伝ものです。外伝の外伝・・・・・・ややこしいですが^^;
管理人から
音夢からは勇気をさくらからは希望を美春からは・・・何かを。
そうやってハルという人は出来上がったんですね〜
杉並の更生術が知りたいような知りたくないような・・・
それでは次回の3.5章で。