D.C.外伝『ハルと呼ばれる少年』第三章
「孤独、タイムスリップ、さくら」B
さくら「芳乃さくら」
ハル「さ・・・くら・・・?」

・・・やっぱ駄目だ。こいつも思い出せない。
美春のことを知っているということは、こいつとも何かあったはずなんだが、
俺の記憶は美春以外の人物のことが消されているため、思い出せなかった。
もちろん、その頃の俺のこともだ・・・。

さくら「ちょっと、こっち来て」

さくらが俺の腕を掴み、俺たちは部屋から出た。
俺はもうさくらに抵抗するつもりなど、もうなかった。

ハル「・・・何だよ、俺にかまって」
さくら「ボクがハルちゃんにかまう理由は何だと思う?」
ハル「・・・・・・知らねぇな」
さくら「ボクはね、昔の心優しいハルちゃんに戻ってほしいだけなんだよ。
美春ちゃんに優しく接していたあの頃のように」

今更戻って、何だっていうんだよ。

ハル「・・・ふーん、それで?」

一瞬さくらがムっとした表情をしていたが、それでも構わず俺に言った。

さくら「あの頃のハルちゃんなら、ガラスを割るなんていう行為をしなかったはず。いや、しないと思うよ。
それに、そんなハルちゃんの姿を美春ちゃんが見たらどう思う?」

み、美春が・・・? だが、もう・・・美春とは・・・・・・会えない。
距離がありすぎるだろ。もう俺がいくら美春のことを想っていたって、無駄なんだ・・・。

ハル「さあな。
・・・もう、美春とは会えない。引っ越してしまえば、もう美春の所なんかに行けやしない。
俺が初音島に戻ったって、美春は引っ越してどっかにいっちまったんだろ? だから美春にはもう、会えないさ」
さくら「そんなことない。美春ちゃんは元気に今日も初音島で暮らしてるよ。
毎日、ハルちゃんのことも想ってるよ。いつ会えるのか楽しみに」

じゃ、じゃあ、美春にはいつでもあの島で会えるというのか。
美春が俺のこと想っているのなら、俺はその期待に応えてやらないといけないのかもな。
・・・いや、無理だ。

ハル「・・・金がねぇから、あの島には行けない。だから、美春には会えない」
さくら「会えるよ、ハルちゃんなら」
ハル「じゃあ、お前が美春をここに連れてきて、俺と会わせろよ」

少々乱暴な口調だったが、丁寧な言葉なんて思いつきやしなかった。
さくらは下に俯いた。

さくら「・・・・・・駄目だよ、美春ちゃんに会うなら、みっちり勉強しなきゃ」
ハル「勉・・・強?」
さくら「そうだよ、勉強すればいいんだよ」

何を言ってるんだ、こいつ。
美春に会うことと、勉強は関係ねーだろ。
勉強して、それが一体なんだっていうんだ。美春と会うのに必要ねーだろ。

ハル「勉強が、何だっていうんだ」
さくら「勉強は楽しいよ。いろんな知識が入って、日に日に自分の脳が賢くなってね。驚きの毎日だよ」
ハル「・・・それがどーした。それが何だっていうんだ。どーせ勉強なんてつまんねーし、退屈なだけだ」

パンッ!

再び、俺の頬にさくらが平手打ちをした。
さくらは怒りの表情を見せていた。

さくら「バカっ! 何でわからないの! ボクはハルちゃんを更生させているんだよ!
ボクはね、ハルちゃんが初音島に居る未来から来たんだよ! 
未来から来たからハルちゃんが今、どうなっているのかもわかるんだよ!
どうしてそうやって、ネガティブな方向に行くわけ!!」

さくらの瞳がうっすら、潤ってきていた。
それに、さくらの居る未来では、俺は初音島に住んでいるのか。
そうか、俺は美春と一緒にさぞ幸せに暮らしているのだろう。
ま、そんなの、理想と現実の関係であり得ることか知らんけどな。
それに、今の俺はネガティブな考えか・・・。

ハル「ふん、ネガティブになっている気持ちが知りたいか。
それはな、俺を好きになってくれる人が居ないからだ。
どーせ俺は孤独で、そして面白みのない、ただの男だと他のやつらは思ってんだよ」

中学のクラスメート、先生どもはみんな、嫌いだ。

さくら「そんなことない! ハルちゃんは面白みはあるよ!そんな考えをしているから、面白みがないだけだよ!」
ハル「・・・俺は、こんな環境で家に居たって、学校に行ったって、好きになってくれる人、友情のある親友がいないんだ。
だからもう、人なんて、信じられない」
さくら「ボクは、ハルちゃんが大好きだよ!! 美春ちゃんだってハルちゃんが大好きだよ!! 初音島の人々は誰だってハルちゃんが大好きだよ!!
成田君だっているじゃない!!」
ハル「・・・あいつは、ただの不良だ。親友の域に達していない」
さくら「ねぇ、ハルちゃん、お願いだから悪い方向に向かわないでよっ!!」

とうとうさくらは泣き出した。

ハル「・・・」

俺は、女の子を泣かせてしまった。俺は罪悪感を抱いた。
まさかさくらが泣くとは思いもしなかった。
それに、俺を好きになってくれている人がそんなにもいるのか?

ハル「・・・ホントなのか・・・、俺を・・・好きで・・・好感を抱いている人が・・・こんなにも・・・?」

俺の心の中で、昔の心が蘇りかけていた。
昔のことなんて知りもしないのに、この時の俺は思い出しかけていた。
なぜだ、なんでこんな罪悪感を抱いている・・・。

ハル「・・・」

俺は誰からも好感をもってくれているひとは居ないと思っていた。
クラスメートだって、俺を見て見ぬふりをみせるし、話し掛けられたこともあまりない。

ハル「・・・ん? そういえば・・・こいつ、俺に難なく話し掛けたな。
それに、俺を好きだって・・・―――」

今ここに、俺に好感を持っている人がいるではないか!
それに、俺を昔の無邪気で好奇心旺盛な俺に戻そうとしているではないか!
俺の脳内で善悪が戦っている。ネガティブ主義な俺と、ポジティブ主義な俺とが。
でも今の俺なら・・・ポジティブな方向に行けるかもしれん。

ハル「なぁ、さくら。俺はそんなに好感度が高いのか?」
さくら「う・・・うん・・・。そうだよ」
ハル「勉強は、楽しんだよな?」
さくら「そう・・・。好きな学校に行けるし、職業だって・・・いろんな所に行け・・・るんだよ」
ハル「そ、そうか・・・・・・(グズッ)」
さくら「美春ちゃんに・・・会うために・・・(グズッ)・・・勉強をするように・・・言った理由は・・・・・・君を・・・風見学園に入れさせるために・・・言ったんだよ」
ハル「風見・・・学園?」
さくら「うん。そこには・・・美春ちゃんが通っているんだよ。
ハルちゃん・・・ボクはそこで君を待っているよ!」

俺まで、いつのまにか涙を流していた。
もらい泣きというものだろうか。それとも、自発的に涙が出てきたのだろうか。

ハル「・・・(グズッ)」

俺はもう悪の方向に行かない! 美春が元気に暮らしているんだし、俺の未来は美春と暮らしてるんだ!
俺はこんなにも楽しい未来が待っているんだ! それを期待しながら、勉強するのも悪くはないぜ!!

ハル「さくら、さん・・・・・・(グズッ)」
さくら「うぅ・・・何・・・?」
ハル「・・・俺・・・勉強が・・・したいです。
教えてください、俺に・・・楽しい・・・勉強を」

俺は涙ながら、さくらに言った。
勉強がしたい! そして俺が好感を持っている初音島にも行きたい!
俺はその時そう、思った。




ハル「でも、あの親父とばばァが俺を嫌いというのには、何か気にくわないんだよな」
さくら「あれは、喧嘩で咄嗟に出た言葉だから、気にすることないんじゃない。
喧嘩していう言葉って大半は本気じゃないから、心配することないよ」
ハル「そうかな」




成田「おい、散々どっか行っといて何をやらかしたんだ」

俺とさくらは部屋に戻った。俺はズカズカと成田に歩み寄った。

成田の父「あ、あの・・・」
さくら「心配することないですよ。もうハルちゃんは完全とはいえませんが、昔の心優しいハルちゃんに戻りましたから」

俺は成田に言った。

ハル「もう、悪いことするのは、よそうぜ」
成田「はァ? 何を言ってやがる」
ハル「いい加減、うんざりなんだよ。悪い奴は」

俺は成田もついでに更生させようとしたのだが、なかなかうまくいかなかった。
やはりすぐには無理だろう。

成田「お前、さっきと全然態度が違うぞ。どうしたんだ」
ハル「どうしたって? これが本来の俺なんだよ。今までの俺とは違ってな」

そう、さくらのおかげだ。
おれはさくらのおかげで少しの希望が見えてきた。だから、俺は今までの無駄にした時間を勉強で取り戻すんだ。
そして、成田にもそれを教えたい。

ハル「なぁ、成田。悪いことすんのも面白いけどよ、楽しく勉強すんのもいいかもな」
成田「やなこった!」

俺は成田に微笑みかけたのだが、やはり元々悪な成田には効果がなかった。




仕方なく、俺は成田をほっといて、3学期の期末テストに向けてさくらと一緒に勉強をした。
一日、ゲームに費やした時間は全て勉強の時間に変わる。だが、不思議とさくらと一緒に居ると、なぜか嫌な勉強が楽しくなる。
そのうえ、新しい発見というものも自分で得たのだから。
時々、さくらと遊んだりもした。
一緒に山を登ったり、サッカーで遊んだり、トランプをしたりと。




だが、さくらとの別れは突然起きた。

ハル「もう、帰っちゃうの?」
さくら「この世界にもあまり居られないからね」
ハル「え・・・俺も、俺も初音島に連れてってよ」

俺はさくらに問いた。
どーせなら、俺も美春のところに連れてってくれ! 俺はそう思っていた。
だが、さくらは冷やかな態度で俺に接した。

さくら「・・・駄目。君は1人で初音島に行くんだよ。それにあっちの世界には未来のハルちゃんが居るのに、君がそこに行ったら、混乱を起こすでしょ。
お金がなくても、いける手段は必ずあるはずだしね。手段はハルちゃん自身で考えること。それと、美春ちゃんに会うためにはみっちり勉強をすること!」
ハル「・・・」
さくら「いい、わかった?」
ハル「・・・はい。わかりました」

俺は辛かった。せっかくの唯一の俺に好感を持っている人が消えることに。

さくら「でも、絶対わすれないでね、ハルちゃんが初音島に行きたいと思ったら、自力で行くんだよ。
美春ちゃんは多分、ハルちゃんを待っているよ。そのためにも、またネガティブな方向に行かないこと。
ここの流れに流されないでね。ハルちゃん自身でこの場を切り抜けるんだよ」
ハル「はい!」

さくらは最後に笑顔で俺に振り向いた。




俺はさくらと別れた後も、勉強は欠かさずやった。
そのおかげで学年末テストはクラストップになった。
これも、俺に助言をくれたさくらのおかげだ。そして、俺を良い方向に行かせたのもさくらのおかげ。
俺は日々、さくらに感謝の気持ちを持たなくてはならないだろう。
あの時、さくらが俺に冷たい態度で接したのは、俺の心にある甘えを消そうとしたからだろう。
男なら、人に甘えなんて許さない。




さくら「ホント、あんなこともあったね」
ハル「・・・?」
さくら「あれ? ハルちゃん、どうしたの?」

いや、ちょっと待てよ。昨日の記憶と今日の記憶・・・。
ああああああ!!!!!!!!

ハル「さくら! 俺の歴史の中に入りこんだでしょ!?」
さくら「え、わかっちゃった?」
ハル「当たり前です!」

どうも昨日と今日の記憶に違和感があったなと思ってたんだ。
あ、それなら・・・――

ハル「なぁ、成田。お前の記憶はどうだ。何か変わったことはないか?」
成田「ふむ、俺の記憶は・・・・・・特にこれといったことはない。しいて言うなら、文化祭で何かやらかそうと新しい案を思いついたことだけだ」

お・・・お前なァ・・・。

さくら「そうか、成田君が更生したのは杉並君のおかげだもんね」





続く

あとがき
どうも、海です♪
ようやく重い空気から逃れたような気がします。
ハルも更生しました。現在のハルになりました。
めいいっぱいさくらに感謝してください、ハル。

管理人から
また掲載がちょっと遅れちゃいました。すみません。
現代に戻ったさくらは同じですが、ハルも成田も昔からはすっかり変わっちゃってますね。
さくらの偉大さが良く分かる話でした。
それでは第4話で。



                                          
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