さくら「芳乃さくら」
ハル「さ・・・くら・・・?」
・・・やっぱ駄目だ。こいつも思い出せない。
美春のことを知っているということは、こいつとも何かあったはずなんだが、
俺の記憶は美春以外の人物のことが消されているため、思い出せなかった。
もちろん、その頃の俺のこともだ・・・。
さくら「ちょっと、こっち来て」
さくらが俺の腕を掴み、俺たちは部屋から出た。
俺はもうさくらに抵抗するつもりなど、もうなかった。
ハル「・・・何だよ、俺にかまって」
さくら「ボクがハルちゃんにかまう理由は何だと思う?」
ハル「・・・・・・知らねぇな」
さくら「ボクはね、昔の心優しいハルちゃんに戻ってほしいだけなんだよ。
美春ちゃんに優しく接していたあの頃のように」
今更戻って、何だっていうんだよ。
ハル「・・・ふーん、それで?」
一瞬さくらがムっとした表情をしていたが、それでも構わず俺に言った。
さくら「あの頃のハルちゃんなら、ガラスを割るなんていう行為をしなかったはず。いや、しないと思うよ。
それに、そんなハルちゃんの姿を美春ちゃんが見たらどう思う?」
み、美春が・・・? だが、もう・・・美春とは・・・・・・会えない。
距離がありすぎるだろ。もう俺がいくら美春のことを想っていたって、無駄なんだ・・・。
ハル「さあな。
・・・もう、美春とは会えない。引っ越してしまえば、もう美春の所なんかに行けやしない。
俺が初音島に戻ったって、美春は引っ越してどっかにいっちまったんだろ? だから美春にはもう、会えないさ」
さくら「そんなことない。美春ちゃんは元気に今日も初音島で暮らしてるよ。
毎日、ハルちゃんのことも想ってるよ。いつ会えるのか楽しみに」
じゃ、じゃあ、美春にはいつでもあの島で会えるというのか。
美春が俺のこと想っているのなら、俺はその期待に応えてやらないといけないのかもな。
・・・いや、無理だ。
ハル「・・・金がねぇから、あの島には行けない。だから、美春には会えない」
さくら「会えるよ、ハルちゃんなら」
ハル「じゃあ、お前が美春をここに連れてきて、俺と会わせろよ」
少々乱暴な口調だったが、丁寧な言葉なんて思いつきやしなかった。
さくらは下に俯いた。
さくら「・・・・・・駄目だよ、美春ちゃんに会うなら、みっちり勉強しなきゃ」
ハル「勉・・・強?」
さくら「そうだよ、勉強すればいいんだよ」
何を言ってるんだ、こいつ。
美春に会うことと、勉強は関係ねーだろ。
勉強して、それが一体なんだっていうんだ。美春と会うのに必要ねーだろ。
ハル「勉強が、何だっていうんだ」
さくら「勉強は楽しいよ。いろんな知識が入って、日に日に自分の脳が賢くなってね。驚きの毎日だよ」
ハル「・・・それがどーした。それが何だっていうんだ。どーせ勉強なんてつまんねーし、退屈なだけだ」
パンッ!
再び、俺の頬にさくらが平手打ちをした。
さくらは怒りの表情を見せていた。
さくら「バカっ! 何でわからないの! ボクはハルちゃんを更生させているんだよ!
ボクはね、ハルちゃんが初音島に居る未来から来たんだよ!
未来から来たからハルちゃんが今、どうなっているのかもわかるんだよ!
どうしてそうやって、ネガティブな方向に行くわけ!!」
さくらの瞳がうっすら、潤ってきていた。
それに、さくらの居る未来では、俺は初音島に住んでいるのか。
そうか、俺は美春と一緒にさぞ幸せに暮らしているのだろう。
ま、そんなの、理想と現実の関係であり得ることか知らんけどな。
それに、今の俺はネガティブな考えか・・・。
ハル「ふん、ネガティブになっている気持ちが知りたいか。
それはな、俺を好きになってくれる人が居ないからだ。
どーせ俺は孤独で、そして面白みのない、ただの男だと他のやつらは思ってんだよ」
中学のクラスメート、先生どもはみんな、嫌いだ。
さくら「そんなことない! ハルちゃんは面白みはあるよ!そんな考えをしているから、面白みがないだけだよ!」
ハル「・・・俺は、こんな環境で家に居たって、学校に行ったって、好きになってくれる人、友情のある親友がいないんだ。
だからもう、人なんて、信じられない」
さくら「ボクは、ハルちゃんが大好きだよ!! 美春ちゃんだってハルちゃんが大好きだよ!! 初音島の人々は誰だってハルちゃんが大好きだよ!!
成田君だっているじゃない!!」
ハル「・・・あいつは、ただの不良だ。親友の域に達していない」
さくら「ねぇ、ハルちゃん、お願いだから悪い方向に向かわないでよっ!!」
とうとうさくらは泣き出した。
ハル「・・・」
俺は、女の子を泣かせてしまった。俺は罪悪感を抱いた。
まさかさくらが泣くとは思いもしなかった。
それに、俺を好きになってくれている人がそんなにもいるのか?
ハル「・・・ホントなのか・・・、俺を・・・好きで・・・好感を抱いている人が・・・こんなにも・・・?」
俺の心の中で、昔の心が蘇りかけていた。
昔のことなんて知りもしないのに、この時の俺は思い出しかけていた。
なぜだ、なんでこんな罪悪感を抱いている・・・。
ハル「・・・」
俺は誰からも好感をもってくれているひとは居ないと思っていた。
クラスメートだって、俺を見て見ぬふりをみせるし、話し掛けられたこともあまりない。
ハル「・・・ん? そういえば・・・こいつ、俺に難なく話し掛けたな。
それに、俺を好きだって・・・―――」
今ここに、俺に好感を持っている人がいるではないか!
それに、俺を昔の無邪気で好奇心旺盛な俺に戻そうとしているではないか!
俺の脳内で善悪が戦っている。ネガティブ主義な俺と、ポジティブ主義な俺とが。
でも今の俺なら・・・ポジティブな方向に行けるかもしれん。
ハル「なぁ、さくら。俺はそんなに好感度が高いのか?」
さくら「う・・・うん・・・。そうだよ」
ハル「勉強は、楽しんだよな?」
さくら「そう・・・。好きな学校に行けるし、職業だって・・・いろんな所に行け・・・るんだよ」
ハル「そ、そうか・・・・・・(グズッ)」
さくら「美春ちゃんに・・・会うために・・・(グズッ)・・・勉強をするように・・・言った理由は・・・・・・君を・・・風見学園に入れさせるために・・・言ったんだよ」
ハル「風見・・・学園?」
さくら「うん。そこには・・・美春ちゃんが通っているんだよ。
ハルちゃん・・・ボクはそこで君を待っているよ!」
俺まで、いつのまにか涙を流していた。
もらい泣きというものだろうか。それとも、自発的に涙が出てきたのだろうか。
ハル「・・・(グズッ)」
俺はもう悪の方向に行かない! 美春が元気に暮らしているんだし、俺の未来は美春と暮らしてるんだ!
俺はこんなにも楽しい未来が待っているんだ! それを期待しながら、勉強するのも悪くはないぜ!!
ハル「さくら、さん・・・・・・(グズッ)」
さくら「うぅ・・・何・・・?」
ハル「・・・俺・・・勉強が・・・したいです。
教えてください、俺に・・・楽しい・・・勉強を」
俺は涙ながら、さくらに言った。
勉強がしたい! そして俺が好感を持っている初音島にも行きたい!
俺はその時そう、思った。
ハル「でも、あの親父とばばァが俺を嫌いというのには、何か気にくわないんだよな」
さくら「あれは、喧嘩で咄嗟に出た言葉だから、気にすることないんじゃない。
喧嘩していう言葉って大半は本気じゃないから、心配することないよ」
ハル「そうかな」
成田「おい、散々どっか行っといて何をやらかしたんだ」
俺とさくらは部屋に戻った。俺はズカズカと成田に歩み寄った。
成田の父「あ、あの・・・」
さくら「心配することないですよ。もうハルちゃんは完全とはいえませんが、昔の心優しいハルちゃんに戻りましたから」
俺は成田に言った。
ハル「もう、悪いことするのは、よそうぜ」
成田「はァ? 何を言ってやがる」
ハル「いい加減、うんざりなんだよ。悪い奴は」
俺は成田もついでに更生させようとしたのだが、なかなかうまくいかなかった。
やはりすぐには無理だろう。
成田「お前、さっきと全然態度が違うぞ。どうしたんだ」
ハル「どうしたって? これが本来の俺なんだよ。今までの俺とは違ってな」
そう、さくらのおかげだ。
おれはさくらのおかげで少しの希望が見えてきた。だから、俺は今までの無駄にした時間を勉強で取り戻すんだ。
そして、成田にもそれを教えたい。
ハル「なぁ、成田。悪いことすんのも面白いけどよ、楽しく勉強すんのもいいかもな」
成田「やなこった!」
俺は成田に微笑みかけたのだが、やはり元々悪な成田には効果がなかった。
仕方なく、俺は成田をほっといて、3学期の期末テストに向けてさくらと一緒に勉強をした。
一日、ゲームに費やした時間は全て勉強の時間に変わる。だが、不思議とさくらと一緒に居ると、なぜか嫌な勉強が楽しくなる。
そのうえ、新しい発見というものも自分で得たのだから。
時々、さくらと遊んだりもした。
一緒に山を登ったり、サッカーで遊んだり、トランプをしたりと。
だが、さくらとの別れは突然起きた。
ハル「もう、帰っちゃうの?」
さくら「この世界にもあまり居られないからね」
ハル「え・・・俺も、俺も初音島に連れてってよ」
俺はさくらに問いた。
どーせなら、俺も美春のところに連れてってくれ! 俺はそう思っていた。
だが、さくらは冷やかな態度で俺に接した。
さくら「・・・駄目。君は1人で初音島に行くんだよ。それにあっちの世界には未来のハルちゃんが居るのに、君がそこに行ったら、混乱を起こすでしょ。
お金がなくても、いける手段は必ずあるはずだしね。手段はハルちゃん自身で考えること。それと、美春ちゃんに会うためにはみっちり勉強をすること!」
ハル「・・・」
さくら「いい、わかった?」
ハル「・・・はい。わかりました」
俺は辛かった。せっかくの唯一の俺に好感を持っている人が消えることに。
さくら「でも、絶対わすれないでね、ハルちゃんが初音島に行きたいと思ったら、自力で行くんだよ。
美春ちゃんは多分、ハルちゃんを待っているよ。そのためにも、またネガティブな方向に行かないこと。
ここの流れに流されないでね。ハルちゃん自身でこの場を切り抜けるんだよ」
ハル「はい!」
さくらは最後に笑顔で俺に振り向いた。
俺はさくらと別れた後も、勉強は欠かさずやった。
そのおかげで学年末テストはクラストップになった。
これも、俺に助言をくれたさくらのおかげだ。そして、俺を良い方向に行かせたのもさくらのおかげ。
俺は日々、さくらに感謝の気持ちを持たなくてはならないだろう。
あの時、さくらが俺に冷たい態度で接したのは、俺の心にある甘えを消そうとしたからだろう。
男なら、人に甘えなんて許さない。
さくら「ホント、あんなこともあったね」
ハル「・・・?」
さくら「あれ? ハルちゃん、どうしたの?」
いや、ちょっと待てよ。昨日の記憶と今日の記憶・・・。
ああああああ!!!!!!!!
ハル「さくら! 俺の歴史の中に入りこんだでしょ!?」
さくら「え、わかっちゃった?」
ハル「当たり前です!」
どうも昨日と今日の記憶に違和感があったなと思ってたんだ。
あ、それなら・・・――
ハル「なぁ、成田。お前の記憶はどうだ。何か変わったことはないか?」
成田「ふむ、俺の記憶は・・・・・・特にこれといったことはない。しいて言うなら、文化祭で何かやらかそうと新しい案を思いついたことだけだ」
お・・・お前なァ・・・。
さくら「そうか、成田君が更生したのは杉並君のおかげだもんね」
続く
あとがき
どうも、海です♪
ようやく重い空気から逃れたような気がします。
ハルも更生しました。現在のハルになりました。
めいいっぱいさくらに感謝してください、ハル。
管理人から
また掲載がちょっと遅れちゃいました。すみません。
現代に戻ったさくらは同じですが、ハルも成田も昔からはすっかり変わっちゃってますね。
さくらの偉大さが良く分かる話でした。
それでは第4話で。