このSSはゲームおまけに登場する『君が教えてくれた花の名前は』をクリアしているとより楽しめます。




「仁科先生、この植木鉢は何ですか?まさかまた鍋の食材ということはないですよね?」
「ん?あ〜、それね。この前、ポンポン草で酷い目にあったでしょ?その解毒剤を作ろうと思って、その草育ててるの」
「ホント、酷い目に遭いましたよね・・・」
「正直思い出したくもないけど、失敗を反省して次に生かすのが科学者だからね」
ポンポン草とは匂いを嗅ぐと語尾に丸一日『ポン』と付いてしまう恐ろしい(?)草のことである。
先日、ちひろと恭子、それに直樹の3人はその被害に遭い、1日沈黙を余儀なくされたのであった。

「綺麗な花ですね〜」
「そうでしょそうでしょ。にゃんにゃん草は鮮やかな・・・ってもう花咲いてるの!?」
「ええ、咲いてますにゃん」
「・・・ま、マズイわ。早く隔離しないとにゃん」
「仁科先生、これってにゃん」
「毒をもって毒を制するつもりだったにゃん」
それがまさかこのようなことになるとは完全な想定外であった。

「また丸一日これですか?にゃん」
「半日ほどのハズにゃん」
恭子は先日見たにゃんにゃん草に関する本の内容を思い出して、ちひろの問いに答えた。

「どっちにしろ学校あるんですよ?にゃん」
「とりあえず隔離しましょうにゃん」
「そうですねにゃん。また久住先輩を巻き込むのも悪いですしにゃん」
ちひろは本心からそう思ったが、恭子はチッと僅かに舌打ちをした。
死なば諸共、恭子は直樹も巻き込んでしまいたかったのだが。

「それじゃ、この前みたいに上手く誤魔化してにゃん」
「善処しますにゃん」
にゃんにゃん草の隔離も終わり、始業時間が近付いていたのでちひろと恭子は温室を後にした。




ちひろside
「おっはよ〜、ちひろ」
仁科先生と別れ、1年生の校舎へ足を向けてすぐ、親友の茉理が少し離れたところから挨拶をして来た。
両側面で縛った髪をなびかせながら、小走りで駆け寄って来る。
え〜っと、確か久住先輩の話ではツインテールって言うんだったっけ?

「おはよう、茉理にゃん」
「茉理にゃん?どうしたの、ちひろ?」
「な、何でもないにゃん。そう、マイブームにゃん」
「ちひろ、何かあったの?」
茉理が怪訝な顔をしている。それはそうだろう。
いきなり友人がにゃんなんて言えば誰でも不思議に思う。

「気にしないでにゃん」
「ふぅ〜ん。まぁあたしは別に気にしないけどにゃん。ってあれ?にゃん」
「!?」
「別ににゃんなんて言う気ないのににゃん」
「こ、これってにゃん」
私の中で嫌な推理が完成した。もしかして、私から感染してる?

キーンコーン カーンコーン

予鈴が鳴ったけど、これは遅刻覚悟で保健室に行かざるを得ない。
このまま教室に行けばバイオハザードになってしまう。

「茉理、ちょっと来てにゃん」
「え、ちひろどこ行くにゃん?」
私は茉理の手を引いて保健室に向かって走り出した。




恭子side
「おはようございます、仁科先生」
「あ、おはようございます、深野先生にゃん」
「にゃん?」
げっ。深野先生が変な子を見る目で見てる。

「いえ、失礼しますにゃん」
「はあ」
危ない、危ない。ついうっかり挨拶返しちゃったわ。気を付けないと。




「あら、結にゃん。こんな朝早くからどうしたにゃん?もうすぐ授業始まるにゃん」
保健室に入ると、主の私より先に結がいた。
しまった、鍵開けっ放しだった。どうも朝から凡ミスが多い。

「どうしたのって、それよりも『にゃん』って何?」
「こ、これはその話すとなが〜い事情があるにゃん」
「ふ〜ん。それより昨日私のお気に入りのペンをここに忘れてなかった?」
「ああ、それなら机の上のペン立てに立ってるにゃん」
「ありがとうにゃん」
「!?」
「あ、あれ?にゃん。勝手ににゃんって付いちゃうにゃん」
ま、まさか二次感染してる?その考えが頭を過ぎった瞬間、保健室の扉が開いて二人の女生徒が駆け込んで来た。

「仁科先生にゃん」
「どうなってるんですか?にゃん」
「渋垣まで感染しちゃったの?にゃん」
そして同時に嫌な予感が再び頭をよぎる。確かさっき私は深野先生に・・・忘れよう。
ちょっと話しただけだ。大丈夫、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせる。

「とりあえずみんなマスクをするにゃん。これ以上感染したら誤魔化しようがないにゃん」
「誤魔化すって何のことですか?にゃん」
ああそうだった。渋垣は未来の人じゃないんだった。もう慌て過ぎて頭が付いて来ない。

「え〜っと、その仁科先生が品種改良して出来ちゃった変な草の影響なんだにゃん」
「そうなんですよにゃん。仁科先生ってばよくそういう変なもの作っちゃうにゃん」
「そ、そうなんですかにゃん。仁科先生って凄いんですねにゃん」
ナイスフォローと言いたいトコだけど、何かバカにされた気がする。

「まぁそういう訳だから、今日一日はマスクして喉痛めたフリしててにゃん」
「「分かりましたにゃん」」
渋垣が細かいことを気にしない性格で良かった。秋山辺りだったらこうすんなりは行かないだろう。

「二人はともかく、私はこれから授業にゃん。喋らずにどうするにゃん!」
「喉が痛いってことで小声で喋るにゃん」
「そんなことしてもにゃんって聞こえるでしょ!にゃん」
「そんなこと言っても・・・にゃん。黒板に書くとかするにゃん」
「今日の授業は進みが悪そうにゃん・・・」
結には悪いけど、結は黒板が使えるだけマシだ。
私はどうやって誤魔化そう?やっぱり身振り手振りだろうか?筆談という手もあるか。

キーンコーン カーンコーン

そこまで考えた時に本鈴が鳴った。私はともかく、この3人は早く教室に行かないといけないハズだ。

「保健室にいたって言っていいから急ぐにゃん」
「言えないですにゃん」
「あ、そうかにゃん。じゃあ今から紙に書くから橘と渋垣はちょっと待つにゃん」
「じゃあ私は先に行ってるにゃん」
慌てて保健室を飛び出す結を見送り、私は二人が保健室にいたという証明書を書いた。




「はぁ、全くとんでもないことになったにゃん」
二人を見送り、コーヒーでも入れて一息つこうかと思ったところで、ノックも無しにいきなり保健室の扉が開かれた。

「仁科先生にゃん」
ゴン
その顔とセリフのギャップに思わず頭をしこたま机にぶつけてしまった。

「ふ、深野先生にゃん。どうしたにゃん?」
「どうしたも、こうしたもこれは先生のせいでしょう?にゃん」
「う、疑い深いのはよくないにゃん」
笑いを堪えながら私はなんとか返答する。

「恭子先生、勘弁してくださいにゃん」
「久住、あんたも感染したにゃん?」
久住が深野先生に続いて保健室に入って来る。

「やっぱり仁科先生のせいじゃないですかにゃん」
「仁科先生〜にゃん。なんとかして欲しいにゃん」
「これだとまともに喋れないですにゃん」
「天ヶ崎と藤枝まで・・・にゃん」
仕方なく白状して、にゃんにゃん草について知っていることを答える。
どうやら深野先生は、遅刻しそうになって廊下を走ってる久住と天ヶ崎、藤枝を注意する時に気付いたらしい。
藤枝の場合、遅刻しそうになったのは十中八九久住のせいだと思うけど。
そして、注意されていた3人も深野先生から感染したというわけだ。

「今日は夜まで喋れないですか?にゃん」
「く、くくもうダメ、笑わないなんて無理よ〜にゃん」
ここまで我慢してたが、さすがにそのシリアス顔で言われると我慢も限界である。
普段の毅然とした態度がある為、そのギャップには耐えられない。

「きょ、恭子先生にゃん。オレも笑い耐えてたのににゃん」
「わ、私だって、アハハハハハハハにゃん」
ゴン ゴン
久住と天ヶ崎が私につられて笑い出したが、深野先生のゲンコツによって静まった。
あ〜痛そう。

「笑いごとじゃないにゃん」
シリアス顔でそんなこと言われても。これ以上私を笑わせないで欲しい。

「仁科先生!にゃん」
「は、はいにゃん。今日はマスクを付けて、静かにしてるのがいいにゃん」
「私はこれから授業ですよ?にゃん」
「黒板に書くとかしてなんとか切り抜けて下さいにゃん」
「いっそ自習にするってのはどうですか?にゃん」
ゴン
また余計なことを。久住は頭を抑えてうずくまっている。

「お前は遊ぶだけにゃん。喋らずとも問題なくやってみるにゃん」
「ところで、他にも感染した人いるんですかにゃん?」
4人に渡したマスクの袋以外にも、さらに4つ机の上に袋が空いてるのを見て藤枝が尋ねて来た。さすがによく見ている。

「私以外にも、野乃原先生、橘、渋垣が感染してるにゃん」
「茉理の奴も感染してるにゃん!?」
「そうにゃん」
「こりゃからかいがいがあるにゃん」
「喋れないのにどうやってからかうにゃん」
と呆れ気味に天ヶ崎が言った。まぁ出来ないことも無いだろうが。

「そうだったにゃん・・・」
「ともかくにゃん。私たちは教室に戻るにゃん」
深野先生に連れられて3人が保健室を出て行く。
どうせならこのままここにいたいにゃん、と久住がボソっと言ったのは多分私にしか聞こえて無かっただろう。
健闘を祈るにゃん。あたしは別に黙っててもほとんど問題無いしにゃん。




「は〜えらい目にあったにゃん」
「何かあったにゃん?」
久住は私の淹れたコーヒーを少し飲んでから溜息を吐いた。あっという間に放課後になった。
私は喉が痛くて声が出ないというジェスチャーをしてから、紙やPCに書いて意思を伝えて切り抜けていた。
そこに疲れきった様子の久住と天ヶ崎、保護者の藤枝がやって来たのである。

「喉が痛くて声が出ないってことにしてたんですけど、寝てたなおくんが指名されて慌ててうっかり答えちゃったんですにゃん」
「何て?にゃん」
「寝てませんにゃん!って大きな声で言ったんです」
「それでにゃん?」
「咳払いして誤魔化してたんですけど、美琴のツボに入っちゃったみたいで、笑いまくって大変だったんですにゃん」
「笑いながらにゃんにゃん言ったからクラス中に注目されたにゃん。しかも宿題まで貰っちゃったにゃん」
「美琴は笑い上戸だもんにゃん」
それはまた滑稽な授業だったのであろう。

「しかし美琴はラッキーだよな〜にゃん」
「どうしてにゃん?」
「あんなことがあっても、普段からにゃんにゃん言ってても違和感ないキャラだしにゃん」
「ひ、酷いにゃん。私はそんなキャラじゃないにゃん」
久住と天ヶ崎がそんなことを言い合っていると保健室のドアがノックされた。

「どうぞ〜にゃん」
「普通に言っちゃっていいんですかにゃん?」
「こればっかりはどうしようもないにゃん」
まぁ自分で扉を開けに行ってもいいが、さすがに面倒だ。
藤枝にそう答えたところで入って来たのは橘だった。

「ちひろちゃんにゃん」
「久住先輩にゃん!先輩も感染してるにゃん?」
「ちひろちゃ〜んにゃん」
「天ヶ崎先輩までにゃん。もしかして藤枝先輩もですかにゃん?」
「そうなのにゃん」
あれ?セットで来るかと思ってた渋垣がいない。

「茉理はどうしたにゃん?」
「茉理は食堂委員会のバイトがあるからって無理して行ってるにゃん」
「そうか、そりゃ面白いにゃん。ちょっとからかって来るにゃん」
「なおくんにゃん。茉理ちゃんが可哀相でしょにゃん」
「あ、私もカフェテリア行くにゃん」
慌しく上級生の3人が保健室を出て行く。それと入れ違いで結が入って来た。

「疲れたにゃん・・・」
「今コーヒー淹れたげるにゃん。橘も飲んでいくわよね?にゃん」
「いただきますにゃん」




テーブルを囲んで、3人で私の入れたコーヒーを啜る。

「本当に大変だったにゃん。出席取るのも一苦労にゃん」
「そりゃ大変だったにゃん。橘はどうだったにゃん?」
「私の方は特に問題なかったですにゃん」
「そりゃ良かったにゃん」
「私の方は良くないにゃん!」
でもまだ結はマシに思う。この顔とスタイルならにゃんにゃん言っても許されるだろう。

「また変なこと考えてないにゃん?」
「考えてないにゃん」
そこでまたまた保健室のドアがノックされた。

「どうぞ〜にゃん」
「失礼しますにゃん」
「ブーッ」
コーヒーを飲み掛けていたせいで、思いっきり吹いてしまった。

「熱いにゃん!」
そこまで量は多くなかったとは言え、結に掛かってしまったらしい。
でも心構えも無く、深野先生ににゃんとか言われて笑わないのは無理だ。

「ごめんにゃん」
「深野先生も感染してるにゃん?」
「ええにゃん。幸い何とか気付かれずに授業出来ましたにゃん」
「私は1回うっかり喋っちゃいましたにゃん」
結は私が飛ばしたコーヒーを拭き取りながら答えた。

「そう言えば仁科先生?にゃん」
「橘どうかしたにゃん?」
「にゃんにゃん草がポンポン草の解毒剤なら、その逆にはならないんですかにゃん?」
・・・もしかしたらなるかも知れない。解毒というより、相互作用で治療しようとしたのだ。普通に考えればあり得る。
余りに余りな状況に頭が全く回っていなかった。

「まだポンポン草の残りがあるから試してみるにゃん」
私は棚にしまってあるポンポン草の残りを入れたケースを取り出し、嗅いでみる。

「どうかしら?あ、治ってる」
「私にも早く嗅がせて下さい!にゃん」
「私もです〜にゃん」
私は深野先生と結にポンポン草の入ったケースを渡した。

「治ったかな?あ、い、う、え、お。・・・ふぅ、助かった。家に帰れないところだった」
「プリン〜。あ、私も大丈夫みたいです」
試す言葉がプリンとは結らしい。橘も治ったようだ。
早く残り4人にも嗅がせてやらないと。

「それにしても良かった良かった」
「全然良くないです!本当に酷い目に遭いました」
「全くです。どれだけ授業が大変だったと思ってるんですか?プリンで賠償して下さい」
「いや〜その、滅多に出来ない体験が出来たってことで・・・ダメ?」
『ダメです!』
その後私は二人にたっぷり説教されたのだった・・・
そんなに怒らなくてもいいのに、ねぇ〜?





終わり

原案考えたのが一昨年の12月で、清書始めたのが去年の7月というやる気の無さ。
しかもかなり放置しといて、今年の11月にようやく完成しました。約2年掛かりの制作です。ってかその存在を忘れてました。
ってことで初の月は東に日は西にSSです。他にも色々考えてたんですが、結局これが完成したのが一番早いです。
柚香も出したかったんですが、キャラが出過ぎるのも問題なので自重しました。
まぁもう十分出過ぎてる気がしないでも無いですが。
今度は柚香SS書きたいですね。柚香は唯一恋人同士になってからのイベントがゲーム内に無いキャラですし。
それでは次回のSSでお会いしましょう。



                                         
禁断のにゃんにゃん草
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