君とここで
「どれがいいんだろうな〜」
6月上旬。梅雨の真っ只中なだけあって、店の外は大雨だ。
まぁ、つまり俺は店の中にいるわけなんだが。
それもただの店とは違う。

「俺に美的センスを求めるのが間違いだよな」
俺は指輪とにらめっこをしていた。
学園からいつものようにことりと下校し、バス停で別れ、1度帰宅してからここに来てすでに1時間。
店員さんにアドバイスを貰うが、なかなかこれといったものは見つからなかった。

「出直すか・・・」
結局俺は2時間粘った後、店を出て行った。
今日は諦めようかな、と雨の降ってくる空を見上げながら考えていると、ふと目の前を黄色のバナナ模様の傘が横切る。

「げっ」
「ほえっ?」
よりにもよって宝石店の前で美春と遭遇してしまった。
しばし沈黙。しかし、美春がふと何かに気付いたように声を出す。

「朝倉先輩が宝石店から出てくるなんて・・・白河先輩にプレゼントですか?」
「ま、まぁな」
見事的中。まぁ、男が宝石店入るような時ってそんな時ぐらいしかないだろうし。

「で、お前はなんでこんな雨の中こんな所にいるんだよ」
結構な雨が降っていることもあって、帰宅時間にも関わらず人通りは少ない。

「あ、はい。美春はバナナが珍しく切れかけてたので買いに来たんですよ」
と言って手に持ったスーパーの袋を見せてくれる。1日3本のペースで食っても腐りそうな量だ。

「そ、そうか。そのバナナやっぱ1人で食うんだよな?」
「もちろんです。あ、でも朝倉先輩がどうしても欲しいというなら1本上げますよ?」
「いや、遠慮しとく」
迂闊に貰うとバナナ講義聞かされそうだしな。

「お、そうだ。美春、どっかいい宝石店知らないか?この店にはなんかピンと来るものが無くてさ」
「宝石店・・・ですか?う〜ん、どこにあったかな〜。・・・あ、確か」
「知ってるのか?」
「多分あったと思うんですけどね〜」
と言いながら美春はポケットから手帳を取り出し1ページ千切った。
そしてそれにスラスラと絵を描き入れて行く。

「ここにあったと思うんですけど・・・」
「美春結構地図上手に描くんだな〜」
美春の手の上には子どもでも辿り付けるぐらい綺麗な地図が完成していた。

「えっ?い、いえ、それほどでもないですよ〜」
「そんなことないぞ?音夢と比べたらまさに月とスッポンだ」
「確かに音夢先輩のは分かりにくいですからね・・・」
2人で音夢の描いた縮尺も角度もめちゃくちゃな地図を想像する。
あの地図で辿り着ける奴は一人としていないだろう。描いた本人は方向音痴だからなおさら着けないだろうし。

「よし。ありがとうな、美春。早速行ってみるよ。また今度チョコバナナ奢ってやるからな」
「あ、はい。楽しみにしてますね〜」
俺は美春と別れて地図に描かれた島の北東に位置する商店街を目指す。
この初音島でも1番大きい商店街だ。

歩いていると雨が少しずつ小降りになり出していた。
「そういや、ことりのサイズは暦先生越しに聞いたけど、俺の指って何号なんだろ?」
男で自分の指輪のサイズを知ってる奴はそうそういないだろう。
大体最近まで気にしたことも無かった。

「ま、それより今は指輪探しが先決だ」
オレはそう呟いて小雨の中一人歩みを速めた。




続く



                                         
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