ToHeart2〜Baseball Days〜
5番レフトはるりゃん
「吉田さんにも打たれてこのままズルズル行くかと思いましたが、6番の桂木さんを打ちとってチェンジです」
「0対2なの。れもまだ序盤らし、大丈夫らもん」
シルファちゃんの言う通りだ。まだ1回が終わっただけだ。

「あ〜もう!ホームランだと思ったのに!」
そんなことを言いながらオレと同じくピーゴロで倒れたまーりゃん先輩が戻って来た。

「まーりゃん先輩、今の変化したんじゃないですか?」
「変化・・・って変化球か?そうは思わなかったぞ?」
「ん〜手元で変化するツーシームみたいやな〜」
珊瑚ちゃんは手元のノートパソコンを操作しながら答えた。

「ツーシームか。カットボールかと思ったんだけど」
「横にぶれるカットボールは金属バット相手だと余り効果が無いのよ」
「へぇ〜、そうなんだ」
「その点ツーシームは下に落ちるからね。まぁ落差は人によって違うし、普通は通じにくいんだけど」
「なるほど。それだと結構手元で変化してるってことだよね、あのじいさん」
言われてみれば俺もまーりゃん先輩もボールの上を叩いてたしな。
次にツーシームと判断したら、ちょっと下目を振り抜くつもりで振ってみるか。

カキーン

「入った〜!入りました!ミル・・・じゃないはるみちゃんのソロホームラン。来栖川エレクトロニクスズ1点返しました」
「相変わらず凄いバカ力なの」
なんかミルファちゃんとシルファちゃんの間で火花が飛んでる気がする・・・
しかしさすがはるみちゃん。練習の時と同じようにギリギリ入るようなホームランだった。

「ナイスバッティン!」
「イエイ!」
戻って来た雄二とはるみちゃんがハイタッチを交わす。

「雄二も頑張ってね」
「おう。よっしゃあ!オレも続くぜ」
雄二はそんなことを言いつつ、バッターボックスに入って行った。

「ナイスバッティング」
「ありがとう、ダーリン」
はるみちゃんとハイタッチを交わした瞬間、金属音が響いた。

「キャッチャーフライです。来栖川エレクトロニクスズ2アウト」
「・・・・・・え?」
「くそう!絶好球だと思ったんだけどな〜」
そんなことを言いながら雄二が戻って来た。
どうやらもうアウトになって来たらしい。

「せめて球数投げさせなさい。初球から打ってどうするのよ」
「いや、絶好球だったから」
「言い訳しない!」
球数な・・・。相手は老人だし、耐球作戦の方が効果的だろう。

「貰った!・・・あれ?」
この二人に耐球作戦は無理だな。あれ?よく考えると全員初球打ちだ。
1点取ったとは言え、4球でチェンジか。5分掛かってないぞ。




「試合は膠着状態のまま4回の表3番ファースト貴明さん」
「せいぜいがんばるれす〜」
さっきは待ったし、ここは初球打ちだ。キャッチャーの裏を掻く。狙い球は・・・

カキーン

「貴明くん、ナイスバッティング〜」
「ナイバッチ〜」
姉妹とは思えん声援の違いだ。まぁ郁乃ちゃんが誉めるなんて珍しいし、素直に受け取っておこう。
それより初球はやっぱりストレートだった。
さっき凡打に取ったし初球は打って来ないと踏んでいたのだろう。

「貴明さんの見事なセンター返しでノーアウトランナー一塁です」
っと、それよりタマ姉のサインは・・・ヒット&ラン?
相変わらずの攻撃的なサインだ。

カキーン

「ランナー走った、これまた初球打ち!ヒット&ランです。
しかし打球は三塁正面への平凡なゴロ。スタートを切っていたファーストランナーはセーフですが、バッターはアウトになりました」
「次は見なくてもわかるれす。ホームランれすね」
カキーン

「入りました!二打席連続はるみちゃんのツーランホームラン。
内角の厳しい球でしたが、完璧に捉えました。来栖川エレクトロニクスズ逆転3-2です」
「シルファの言った通りれす」
「よっしゃあ、逆転だ!オレも続くぜ!」
雄二には期待してないからいいとして・・・




「5回の裏シルバーフォックスはクリーンナップです。3番レフト太田さん」
カキーン

「げっ!来た!」
飛びつくがギリギリ届かない。しかもフェアだ。

「打ちました。ファースト貴明さんの横を抜ける流し打ち」
「今の捕れらんじゃないんれすか?」
無茶苦茶言ってる。今のは明らかにクリーンヒットだ。
そして次は、さっきは抑えられたけど、初回にホームランを打たれた新城さんだ。

カキーン

「左中間を大きく割る当たりです。これは3つ・・・は無理ですね」
「じじいれすからね」
「シルファちゃん!」
レフトがはるみちゃんの時点で誰でも無理なんだけど。
2回から4回までは抑えれたのに連打か。
結構な球数投げさせられたし、まーりゃん先輩疲れてるのかな?




「5番の吉田さんが四球で出て、ランナーは1塁、3塁です」
やっぱりだ。球が狙い通りの場所に行かなくなっている。

カキーン
「置きに行った球を6番桂木さんがスリーランホームランです!」
完全に棒球だった。四球の後で甘い球を狙い打たれた。
さすがに歴戦の戦士は一味違う。

「後続を断ちきり、来栖川エレクトロニクスズ3点差を追う展開になりました」
「まだ2回あるわ。好球必打よ」
「分かってるよ」
俺はヘルメットを被って、バッターボックスに向かった。

「6回の表来栖川エレクトロニクスズの攻撃は3番ファースト貴明さん」
「せいぜい頑張るのれす」
タマ姉はああ言ったが、この回に点を入れないとキツイ。
簡単に凡退すれば、次の回は下位打線だからだ。
さっきのように初球打ちして、凡退したらシャレにならない。

「兄ちゃん、さっきはナイスバッティングだったのう」
「どうも。今回も打たせて貰いますよ」
「ほっほ。強気じゃのう。だが・・・」
じいさんの言葉に惑わされちゃダメだ。
さっきは話術を始める前に打ったが、今度はバッターボックスに入った瞬間に話し掛けて来た。
とりあえず今回は初球を見逃して攻め方を考えよう。

「ストライク!」
ど真ん中!?完全に読みを外された。
さっき打たれた後の初球なんだし、慎重に入ると思ったけど。
だがストレートじゃなかった。ツーシームだ。一応警戒してたってことか?

「今回も同じように行くかのう?」
落ち着け。次も多分ストライクを取りに来る。
強気のリードだ。読みは同じくツーシーム。
コースはおそらく高目の釣り球。

「げっ!」
「ストライクツー」
「スローボールです。貴明さん完全にタイミングを外されました」
「おまぬけなスイングれすね〜」
「追い込んだぞい」
読みが完全に外されてる。こっちの思考が筒抜けだ。
次はどこだ?ど真ん中、真ん中低め・・・このバッテリーに遊び球は無い。3球勝負だ。
そしてその球種は緩急をつけて、なおかつ手を出したくなるインハイへのストレート!

「第3球目投げました!」
ピッチャーの手を離れた瞬間に分かる、ゆったりとした球。
しまった、またスローボール。何とかバットに・・・

ブンッ

「ストライク、バッターアウト!」
「・・・スローカーブ」
「今回はわしらの勝ちじゃな」
ここまでストレートが5球、ツーシームが.2球、スローボール、スローカーブが1球ずつ。
大事な回なのに塁に出ることが出来なかった。くそっ!このまま終わりたくはない!
もう一打席回って来てくれよ。




「まーりゃん様がヒットで出ましたが、はるみちゃんは敬遠です」
「当り前れす。勝負する方ガアホれす」
虎の子のはるみちゃんが敬遠されたか。
まぁ2打席連発だし当然の判断だな。俺なら満塁でも敬遠する。

「タマ姉、ここは雄二に代打を」
「いえ。ここは雄二で行くわ」
「でもユウくんやっぱり打ててないよ?」
このみが俺の意見に賛成してくれる。だが、タマ姉の考えは違うようだ。

「あの子のキャッチャーとしての能力は高い。タカ坊も分かってるでしょ?」
「それはもちろん」
「このチーム相手には雄二が必要なのよ。逆転してもまた点を取られたら意味が無いの」
カキーン

「雄二さんが倒れてツーアウト一塁二塁です」
言ってる間に雄二はやはり凡退してしまった。
まぁゲッツーにならなかっただけマシか。

「由真〜!打て〜!」
「分かってるわよ!あんたとは・・・違うっての!」
カキーン

「長瀬さん打ちました」
「おお!」
本当に打てるとは思って無かった。

「センターの横を抜けるツーベースヒット。まーりゃん様とはるみちゃんが還って来栖川エレクトロニクスズ1点差です」
「やったぁ〜!」
吉岡さんも続いてくれると良いんだけど。

カキーン

「吉岡さんが倒れてスリーアウトチェンジです」
「まずいれすね〜。負けてるれす」
もう7回しか攻撃出来ない。このままじゃ7回裏に×が付いてしまう。
それに次の打順は9番のるーこから。3者凡退なら俺には回って来ない。

「こらバカ明」
「誰がバカ明だ」
「まだ負けたわけじゃないでしょうが、そんな深刻そうな顔しないでよ」
・・・まさか由真に言われるとは思わなかった。

「はは」
「何笑ってんのよ!?きしょいわね」
「いや、悪い。まさかお前に言われるとは」
「なっ!」
そうだ。まだ終わって無い。点差は1点。ホームラン一発で同点だ。

「全く、人が心配してやったってのに」
「由真」
「何よ?」
「ありがとう」
驚くほど素直に由真に感謝出来た。言われた方の由真はポカーンとしているが。




「三振!これで奪三振数は10!何と18のアウトの内10個が三振です」
「でもこのままじゃ敗戦投手れすけどね」
余計なことを・・・
適度に荒れる球で狙いが絞れないらしい。今のは運が良かった。
何とかして勝ちたい。
せっかくみんなで今日まで練習して来たんだから。

「7回表来栖川エレクトロニクスズ最後の攻撃はるーこさんがセンターフライでワンアウトです」
「打順は一番に返っれセカンドこのこの」
まだワンアウト。一人でも出れば俺に回って来るんだ。

「このみ〜打て〜!」
「かっ飛ばせ〜、こ・の・み〜!」
俺とほぼ同時にスタンドから声がした。この声は春夏さんだ。

「このりゃん打つのだ!」
「柚原さん頑張って〜」
「チビ助出ろよ〜」
ベンチ内から次々と声援が飛ぶ。ワンアウトで意気消沈かと思ったが、まだチームは死んでない。
俺達の声援にこのみは笑顔で答えた。そして・・・

カキーン

「このみナイスバッティング!」
「打球は右中間へ。これは柚原さんの足なら3つ、いえホームが狙えます」
「無理しなくていいわ。菜々子ちゃん、ストップよ!」
タマ姉は3塁コーチの菜々子ちゃんにサインを送る。すかさず菜々子ちゃんはこのみを止めた。

「センターからボールが中継へ。今のはもし突っ込んでいたら結構際どかったですね」
「突っ込んだら良かっらのに」
全く無責任なこと言ってる。体格の小さいこのみもそうだが、あのじいさんキャッチャーに突っ込んで何かあったらどうすんだ。
まぁ・・・・・・あのじいさんならケガすることなくアウトにしそうだが。

「スクイズじゃないんですか?」
俺が聞くよりも先に愛佳がタマ姉に尋ねた。タマ姉のサインは強打だ。

「このみの足ならもしかすれば行けるかも知れない。でも相手はそんなに甘いバッテリーじゃないわ」
「そうですね。ウエストされてアウトになったりすれば最悪ですし」
久寿川先輩の言ったウエストとはボール球を投げて、バットに当てさせないことである。
これをやられると、ほとんどの場合スクイズが失敗してしまう。

「瑠璃ちゃんかっ飛ばせ〜!」
俺はネクストバッターズサークルにしゃがみ、声援を飛ばした。

「瑠璃ちゃん打ってぇ〜」
珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんを応援する。ここまで瑠璃ちゃんは無安打だが、タイミングは合っている。

カキーン

「瑠璃様の素晴らしいクリ−ンヒット。柚原様が返って同点です」
「同点だ!」
「やったよ、タカくん」
戻って来たこのみとハイタッチを交わす。

「3番ファーストバカ明」
・・・今またバカ明って言われたような?

「シルファちゃ〜ん?」
「・・・3番ファースト貴明」
全く・・・。でもお陰で肩の力が抜けたな。二人に感謝しないと。
まだ同点。ここで打たなきゃ勝てないんだ。今度こそ打つぞ。

「ふぅ」
「落ち着いておるのう」
「まさか。心臓バクバクですよ」
併殺打とかで一気にチェンジとかは勘弁したいところだ。得意球のツーシームやスローカーブを引っ掛けるのは避けたい。
逆を言えば、相手はその球を投げて来るってことなんだけど・・・
今回も初球は見逃す。ボールから入ってくれりゃ嬉しいんだが。

「第1球投げました」
「ストライク!」
「ま、そう甘くはないか」
初球外角高め。そういやアウトハイとはあんま言わないよな。
球種はおそらくツーシーム。やはりツーシームで入って来たか。

「今の球は狙ってた球じゃなかったのかの?」
「さぁ?どうですかね」
「第2球投げました!」
「ボール」
真ん中低めのストレートだよな?変化はしてないと思う。高低に揺さぶる気だろうか?

「ツーボール」
「ご主人様は振る気ないんれすかね」
ツーシームかな?今のは多分ストライクを取りに来たんだろう。しかし狙ってた球とは違う。

「タイム」
俺は一度タイムを取り素振りをする。
追い込まれなくて良かった。さすがにツーワンだと不利だ。向こうのピッチャーも疲れてる。
次は多分さっきと同じ、身体にぶつかるかという位置からインローに入り込んで来るスローカーブ!

「第4球投げました!」

カキーン

「溜めて打ちました!狙い打ち〜!貴明さんの打球は左中間へ。これも3つ狙えるか?」
「貴明君、ナイスバッティング!」
「貴明、行け〜!」
3つ・・・は無理だな。

「センターから中継へ。貴明さんは2塁ストップ。1塁から一気に瑠璃様が返って来栖川エレクトロニクスズ土壇場で逆転です!」
「はぁ、はぁ。よし」
狙い通りにインローへスローカーブが来た。
追い込まれる前に来ると思っていただけに3球目が予想外だったけど、狙いはバッチリだった。

「まーりゃん様もライト前ヒットで続いたものの、はるみちゃんがまた敬遠。
ワンアウト満塁のチャンスでしたが、雄二さん、長瀬さんが倒れて3者残塁です」
「せめて犠牲フライ打ってくれよ」
チェンジになり戻って来た俺は雄二に声を掛ける。

「悪い。どうもあのじいさんの話術に乗っちまうんだよ」
口車に乗せられやすい雄二だ。納得。

「長い戦いもついに7回の裏。シルバーフォックス最後の攻撃になるか」
「最後の回、あっちは4番からよ。ここで抑えて3人で締めましょう」
「おお!」
せっかく逆転したんだ。ここでサヨナラなんかされてたまるか。




「快速球!まーりゃん様、スライダーを見せ球に4番新城さんを三振に斬ってとりました」
「ナイスピッチング、まーりゃん先輩」
「おっしゃ〜。ハァハァ、ようやく肩が温まってきたぞ。ハァ、任せろ!」
肩は試合前に温めておくもんだと思うけど。7回までなのに、7回で温まられても困る。
まぁ肩が温まってなかった、ってのは本当のことじゃないだろうが。
事実ここから分かるくらいに肩で息してる。逆転したから力が振り絞れるんだろう。

カキーン!
「このみ!」
「打った打球はセカンドへ。柚原様がキャッチしてファーストへ送球」
このみからの球をしっかりと捕球する。

「アウト!」
「ゲームセット」
「四球のランナーが送りバントで2塁まで進みましたが、反撃はここまで。来栖川エレクトロニクスズ1勝です」
「「「「「「「「「ありがとうございました!!!!!」」」」」」」」」

「小僧」
「はい?」
礼をして握手をする時、キャッチャーの吉田さんが俺の方に来た。

「ナイスバッティングじゃった。次も勝てよ」
「・・・ありがとうございます!」
あんまり打てた感じはしなかったんだけど、一目置いてくれたんだろうか?
元プロの選手に誉めて貰えるってのは嬉しい。しかしそれにしても、あ〜疲れた。





続く

ちょっと間が開きましたが、ToHeart2〜Baseball Days〜5話でした。
1月には完成してたんですが、SS掲載が詰まってたので遅くなりました、すみません。

普通監督のサインに選手が意見なんかしないんですが、意見しないとタマ姉の意図が伝わらないのでそうしてます。
こういうのが貴明視点から書いてる場合の弊害なんですよね。
ようやく5話にして第1試合終了。1回の攻防は長かったですが、今回はある程度短く出来ました。
しかしこの後に試合観戦があるので、2試合目が始まるのは7話になりそうです。



                                         
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