「何、これ?」
「何って見たことないの、雄真くん?」
「いや普通は無いと思うよ?」
「婚・姻・届♪」
杏璃との衝撃の婚約会見のあった週の日曜日の朝、俺は朝から眩暈を覚えそうになった。

「もう既に親権者が書くところは記入終わってるし、あとは雄真くんの記入だけよ」
かーさんの名前だけでなく、バッチリ杏璃の親のところにも記入されている。

「兄さん、私も書きたかったんですけど、私が書くところがないんです!」
すももが何か言っているが、もう訳が分からない。ちょっと状況を整理してみよう。


朝、普通に起きた。
    ↓
かーさんがやたらとニヤニヤしていた。
    ↓
嫌な予感を覚えた。
    ↓
杏璃が来た。
    ↓
「音羽さ〜ん。ちゃんと書いて貰いましたよ」
「あら〜。それじゃもう後は雄真くんだけね」
「と言うわけで、雄真書いてね」
最初に戻る。


・・・結論。やっぱ訳が分かんない。

「どこがどういう話になってこうなったんだ?」
「もう、雄真ってば照れちゃって〜。あたしにプロポーズしてくれたじゃない」
別にすぐさま結婚するとは一言も言ってないんだが・・・

「そ・こ・で、婚約会見まで開いちゃったんだし、6月にオアシスで結婚式ってことになったのよ」
「え、ええええええええええええええ!?」
「せっかくだから雄真くんに秘密で準備しようとしたんだけど、やっぱり服とか採寸しないといけないし〜」
「本人に秘密の結婚式がどこにあるんだよ!」
「斬新じゃない?」
「斬新過ぎるわ!」
そんな斬新さは全くいらない。

「それで、何で6月なの?」
「ジューン・ブライドって雄真くん知らないの?」
「聞いたことはあるけど・・・。6月に結婚すると幸せになれるんだっけ?」
「そうよ。6月、Juneっていうのは・・・・・・すももちゃん、何だったかしら?」
「ローマ神話のジュノーから取られたんですよ。
ジュノーが結婚生活の守護神であることから、6月に結婚式を挙げる花嫁をジューン・ブライドと呼ぶんです。
そこから6月に結婚をすると幸せになれるといわれるようになったんです」

なるほど、ジューン・ブライドっていうのにはそういう意味があったのか。
しかしかーさんも忘れてたみたいだし、あんまりそういう話を知ってジューン・ブライドだとか考えてる人は少なそうだ。

「とにかく!まだ結婚なんて早いってば。来年の6月もまだ学生だよ?」
「そ、そんな・・・。雄真はあたしと結婚するのが嫌なの?あのプロポーズは遊びだったの?」
杏璃は今にも泣きそうな顔をする。そんな顔をされると俺が悪いみたいだ。

「兄さん!酷いです!女の子の気持ちを何だと思ってるんですか!」
「そうよ、雄真くん!男の子として、ちゃんと自分の言った言葉には責任持ちなさい」
すももは真剣に・・・かーさんも顔は真剣だけど、間違いなく心の中で笑っている。




「べ、別に結婚しないとは言ってないよ・・・」
「ホント?」
「う・・・うん」
どうにも杏璃・・・に限らず女の子の上目遣いに俺は弱い。
というか強い奴なんかこの世にいるのか?

「やったぁ〜。それじゃあやっぱり早く結婚式しよう」
「だから何でそうなるんだよ!」
「だって何事も早い方が良いとは思わない?」
「思いません!何でも時と場合によります」
そう大は小を兼ねるという言葉もあるが、あれもそうだ。
大は小を兼ねないことが世の中にはたくさんある。

「別に焦って結婚式なんて挙げなくてもいいじゃないか。俺達まだ学生なんだし」
「で、でも〜あたしは雄真と・・・今結婚したいの」
再び杏璃の上目遣い攻撃。いかん、ここで引いたら負けだ。

「大体杏璃の両親はどうして書いてくれたんだ?普通反対するだろう?」
「それは・・・その〜、あたしの心からの説得に応じてくれたのよ」
ウソだ・・・。絶対にウソだ。目が泳いでいる。

「自分で書いたんじゃないだろうな」
「そんなことしないわよ!ちゃんと説得した。正真正銘お父様の自筆よ」
確かに婚姻届には達筆な文字で書かれている。杏璃の筆跡とは似ても似つかない。
どうやらこれ以上問い詰めても無駄っぽいな。

「杏璃の言いたいことは分かった。でも、俺はやっぱりもう少し先の方がいいと思う。その・・・結婚指輪とかもまだ買えないし」
「それなら大丈夫。一昨日わたし達である程度選んじゃったわ。まだ買ってないけど、お母さん達にまっかせなさ〜い」
どんがらがっしゃーん

「あわわわ、兄さん大丈夫ですか?」
辺りを巻き込んで盛大にずっこけてしまった。

「てへ」
「てへじゃな〜い!何でもう選んでんだよ!」
「酷いですよ、お母さん」
「そうだ、すももからも言ってやれ」
「何でわたしを連れて行ってくれなかったんですか!?」
「そっちかいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
すももの予想斜め上を行く抗議に、この場に俺の味方はいないと改めて悟った。

「ごめんね、すももちゃん。私も一昨日いきなり鈴莉の転移魔法で連れて行かれちゃって・・・」
「母さんも絡んでるの!?」
「仕方ないわよ〜。わたしも鈴莉ちゃんも早く孫の顔見たいしぃ〜」
「お、音羽さん。孫の顔が見たいだなんて」
かーさんは相変わらずの笑み。内心では腹を抱えて笑っているに違いない。
一方杏璃の方は耳まで真っ赤になっている。

「結婚したからって早く子どもが出来るわけじゃないでしょ。学生の本分は勉強です!」
「に、兄さん」
「ん、何だ、すもも?」
「子どもの名前は何にします!?」
バタン!椅子ごと真後ろに倒れてしまった。さっきからすもものズレ方が半端ない。
それにしてもうちの家の天井ってこんなに高かったっけ?
と、どうでもいいことを考えて現実逃避を図ろうとする。

「指輪はまだ買ったわけじゃないし、今度はすももちゃんも一緒に行きましょう」
「はい!兄さんと杏璃さんに似合うの選びますね」
「あらあら違うわよ、すももちゃん。杏璃ちゃんは、もうすぐすももちゃんのお義姉ちゃんになるんだから」
「あ、そうでした。兄さんとお義姉ちゃんに合うの選びますね」
「お、お義姉ちゃん・・・」
何か三人が言ってる気がするが、俺には何も聞こえない。
あ〜天井に染み発見。何であんなトコが汚れてるんだろ・・・




「雄真くん、そんなことしてたらわたしが婚姻届書いちゃうわよ?」
倒れたままの俺に母さんがそんなことを言った。

「そういや何で勝手に書いたりしなかったの?」
考えれば別に俺に書かせる必要は無い。筆跡を適当に誤魔化して、提出だって俺に黙って出しに行ってもいいハズだ。
夫婦で出さなきゃいけないなんてルールは無かったと思う。
まぁそこまではさすがにかーさんもしないだろうけど。

「それはやっぱり結婚っていうのは双方が納得してするものだしぃ」
そう考えていながら何故にここまで強要するのか・・・

「・・・はぁ。分かったよ」
「それじゃあ6月に結婚してくれるの?」
「結婚する。ただし!杏璃のご両親に挨拶に行って許可を貰ってから」
「ええ!?」
「だって俺まだ杏璃の両親に会ったことないし」
杏璃の部屋に行ったことはあるが、杏璃の実家に行ったことはない。

「え、え〜っと会わないとダメ?」
「そりゃそうだろ。結婚式でこっちの親は出るのに、杏璃の方の親が出ないってのは変だろう?」
それにさっきの杏璃の言い方だと、あちらも婚姻届にちゃんと納得してサインしたわけじゃなさそうだ。
俺が杏璃の両親を説得することにより、6月に結婚っていうのを思い留まらせられるかも知れない。

「そ、それは考えてなかった」
「何で考えてないんだよ。真っ先に考えることじゃないのか?」
「むぅ〜。う〜ん。どうするべきか〜」
「小日向殿」
杏璃が悩んでいる途中でパエリアが俺に小声で話しかけてきた。
そういや最初からいたんだった。影が薄くてすっかり忘れてたけど。

「実は杏璃様は・・・」
「は?パエリアを食べさせて?」
「それで・・・・・・」
「・・・・・・脅迫だろ、それは!」
まさかそんな方法で父親に書かせてたとは。
しかし母親の方は別に反対しているわけじゃないとは。それはそれで驚きだ。

「分かったわ、雄真!一緒にお父様にお願いにいきましょう」
「え゛っ!やっぱり行くの?」
「何言ってるの?雄真が行くって言ったんじゃない」
「いや、それはそうだけど・・・」
それは杏璃の父親が一応結婚を認めてると思ったからであって、実際に娘さんを下さいと言いに行くのには勇気がいる。
兄貴もいるんだよな。もし俺がその兄の立場で、杏璃の立場がすももだったら・・・





「いけません!兄さんはそんなこと許しませんよ!」
「うわっ!ど、どうしたんですか、兄さん!?」
はっ!しまった。思わず取り乱してしまった。・・・うん、やっぱりいけないな、こういうのは。

「やっぱり俺が思うに・・・」
「それじゃ早速招待状を送って来るわね。昨日のうちに印刷してたし」
「え、ちょっとかーさん?」
「わたしも手伝います」
「ま、待ってまだ向こうの許可貰ってな・・・い・・・」
かーさんとすももはハガキの束を持って、あっという間に家を出て行ってしまった。
いやいや冷静に考えてる場合じゃない。招待状まで出して中止なんか出来ない。

「早く止めないと」
「雄真!」
「え?」
「新婚旅行はどこがいいかな?」
杏璃はパンフレットを開けながら笑顔でそう言った。
ゴンッ
しこたま机に頭を打ちつけてしまう。

「ゆ、雄真?大丈夫?」
あ〜もう何かどうでもよくなってきた。そうだ、杏璃の言う通りどうせいつか結婚するんだ。
それなら別に早かろうと問題は無い。・・・山ほどある気はするけど多分無い。

「杏璃!」
「は、はい」
「この前はみんなの前で発表、って感じだったから改めて言うよ。俺と結婚してくれ」
「・・・・・・・・・うん。あたしを・・・雄真のお嫁さんにしてください」
俺は杏璃のことを抱きしめ、そっとキスをした・・・





終わり

初めてのはぴねす!SSいかがでしたでしょうか?
だだあま&ラブラブという久しぶりの原点回帰を目指してみました。
やっぱこういうのが初音島の音色らしい感じがします。書いてて少々鬱になりましたけどね!
大分前に最初だけ書いて、完全に放置してました。ってかその存在を忘れてた。
信じられない執筆速度で次々に書いてますが、正直こんなことしてる場合じゃないんですけどね〜
それでは次回のSSでお会いしましょう。



                                         
結婚式はオアシスで♪
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