「せんぱーい!朝倉せんぱ〜い!」

後ろから聞きなれた声が俺を呼んでいる。
もう、聞きなれすぎていて、それでいて、最近は全く聞いていなかった声。
しかし、自分の知っている『声』とは何かが違っていて・・・

「せんぱぁ〜い!お久しぶりですぅ〜!」

相変わらず元気な『声』で俺を呼んでいる。

「美春!美春じゃないか!なんだ、元気そうだなぁ!」

美春は今まである事故によって入院していた。
その間には『美春の姿をしたロボット』が代わりとして、風見学園に来ていた。

「はい!おかげさまで〜!」

俺はその『美春ロボット』の世話役として、今まで『美春』と一緒にいた。
そんな中で、俺は『美春』を好きになり、『美春』も俺を好きになった。

「先輩!一緒に帰りましょう、チョコバナナでも食べながら♪」

『美春』が『止まって』しまったのは悲しかった。

「よっしゃ、今日は復帰祝いに俺がおごってやる!」

だけど、『美春』は俺の中にいる。『美春』との思い出が俺の中にある。

「わ!わ!ホントですかぁ?やったぁ♪」

『美春』ではない美春が俺の隣にいる。
そして、また以前のように桜公園へと足を運ぶ。




----まったく・・・変わってないよな

公園にある屋台でチョコバナナを頼んでいる美春を見ていると、どうしても『美春』のことを思い出してしまう。

----アイツも、こんなの頼んでたっけ・・・

思い出しながら、いつか『美春』が食べていたチョコバナナの一つをほおばる。

「・・・・ぱい!」

----そういえば、初めてバナナを食べたときには煙を吹いたっけ・・・

「あ・・・せん・・!!」

----こうやって、過去を思い出してると、急に歳をとったみたいで悲しくなるな。

「も・・せん・・ってば!」

----そういえば、今更だけど・・・あんなにバナナ食ってたのに、一体どこに入ってたんだろ?

「しょう・・・・すね・・こう・・・これしか・・・」

----後で暦先生に聞いてみ・・・

ゴンッ!!

鈍器で殴ったような音が響く。
・・・『直接』、頭に。

「ぅいっ・・だぁぁぁぁぁ!!」

少し反応が遅れるのは、仕方のないことだろう。
・・・『上の空』だったのだから。

「先輩!ひどいですよぉ!美春が何度も話しかけてるって言うのに〜」

拗ねたような声を出して美春が言う。

「せっかく美春がありがた〜いバナナのお話をしてあげてたって言うのに〜!」

そう、美春がチョコバナナの新作を買ったとき、『つい』聞いてしまったのだ。




----『そんなに食ったら、腹壊すぞ?』

美春の腕の中にはチョコバナナが『詰め込まれた』袋が抱えられている。

----『大丈夫です!バナナは別腹です!・・・って何回も言ってるじゃないですか!!』

そこまで聞くと、俺はいつものように肩をすくめた。

----『まったく・・・そんなに食って一体何がいいんだか・・・!!』

ここまで言うと、言葉と足を止めた。

----マズイ。非常にマズイ気がする。

そう思っても、もう後の祭りである。
おそるおそる後ろを見ると、案の定、美春が『にぃ〜』と笑っているのだ。
俺は近場にあったベンチに腰を欠け、美春もそれにならう動作をしてるところを見た後、空を見てこう考えた。

----今日は晩飯抜きかな・・・




そして、例の『ありがた〜いバナナの話』を聞いているうちに『美春ロボット』のことを思い出していたのだ。
俗に言う、『上の空』の状態だったのである。

「もう〜せっかく美春が・・・」

「ちょっと待て!お前・・・さっき俺に何をした!?」

まだ痛む頭を抑えながら呻くように聞く。

「ほぇ?さっき・・・?」

『わからない』といった風に首を傾げる。

----忘れるのはやっ!!

そして美春が何度か頭を左右に振った後、胸の前でポンッと手を合わせて言った。

「あぁ〜!はい!このバナナで先輩をこの世に呼び戻してあげたんですよ♪」

と言って、カバンの中から出したバナナは・・・

「・・・おい」

「はい?」

「お前・・・まさか、これを俺の頭に・・・?」

「はい♪思いっきり・・・こう、ガツーンと♪」

「・・・・・・・・」

そのバナナは、『凍って』いた。
ちょうど、ドライアイスを使って釘ですら打てるほどまでに凍った『バナナ』。

----ここまでくると、『これ』は本当に『バナナ』と呼ぶべきなんだろうか?

「・・・って、んなこと考えてる場合じゃねぇぇぇ!」

立ち上がり、美春の襟首をつかむ。

「お前は俺を殺す気かぁぁぁ!!」

「え?えっ?だって、音夢先輩が・・・」

「音夢先輩が!?」

「・・・・最近は、『必殺辞書落とし』でも起きなくなってきたと言ってまして・・・」

「言ってまして!?」

「だから・・・これぐらいでないといけないのでは・・・と・・・」

----音夢とこいつは俺を殺すために未来から現れたアンドロイドか何かか?

「はぁ・・・・こんなもんは仮病を使ってるような奴に使ってやれ」

「はぁ・・でも、朝倉先輩も病気でもないのによく学校を休むじゃないですか」

「・・・・・・」

「音夢先輩がいつも言ってましたよ?『兄さんは仮病をよく使うの』って」

「・・・・・・」

----帰ったら音夢の頭に俺の拳をねじ込もう・・・

会話はそこで一旦終了し、とにかく、チョコバナナを食べることに専念することにした。
・・・食べ物の恨み(もといバナナの恨み)は深いだろう。
・・・とにかく、死ななくて良かった。

食べ終わると、久しぶりに美春を送っていくことにした。

「えぇ!?わ、悪いですよぉ!美春は一人で帰れますから!」

「そんなこと言うなって、俺が好きで送るって言ってるんだから」

「で、でも・・・」

----まったく、こいつはいつからこんなに遠慮がちになったんだ?

「やっぱり、打ち所が悪かったか・・・?」

「はい?」

「ん?いや、なんでもない。とにかく、送ってくよ」

「ん〜・・・先輩がそこまで言うなら、送られましょう♪」

そう言って、美春は俺の横に並んで歩いた。
『美春ロボット』の時と同じように。




しばらくして、美春の家の前まで来た。

----いつも思うけど、美春の家ってなかなか大きいんだな。

美春の家は、外見的にはレンガ造りのように見える。
全体的に赤茶色で、渋いと言えば渋いだろう。
それなりに簡素な作りのようだが。大きさはかなりのものだ。

「じゃぁ、先輩・・・送ってくれてありがとうございました♪」

「おう。じゃぁな」

そう言った時、美春の表情が一瞬寂しくなるのが見えた。

「・・・・どうかしたのか?」

見えたからと言うわけではないが、やはり気になる。

「えっ?あっ・・いえ・・・何でも・・ないです・・・・」

そう言って目を逸らす。
寂しそうにしてるのかはわからないが、何かを思ってるのは明らかだろう。

----まったくこいつは・・・つくづく嘘が苦手な奴だな。

「・・・ったく、かったりぃな」

そう言って、美春の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。

「わっ、あわわわわ!」

ある程度拒絶反応が出てきたので、掻き回していた手を美春の頭から離す。

「な、何をするんですかぁ!朝倉先輩!!」

ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら美春が叫ぶ。

----おいおい、玄関先だぞ。近所迷惑だろうが。

----まぁその原因を作った本人が俺なんだがな。

美春はまだむくれているようだ。髪を指でとかしながらこちらを睨むように見ている。

「ふむ。その目ができるなら大丈夫だろう」

「ほぇ?」

わからない、といった風に目を丸くする。

「ちょっと元気がないと思ったからな。荒療治だ」

そう言うと、もっと目を大きく、丸くした。

「えっ?・・・朝倉先輩?」

「お前はいつも無駄に元気なほうがいいんだよ。先輩がお帰りになるんだから、もっと元気に送り出せ」

そう言うと、美春は嬉しそうに顔をにんまりとさせた。

「はいっ♪先輩!さよ〜ならぁ〜!」

「おう。また明日な」

「ハイ♪また明日♪」

そう言って、俺は帰路に着いた。

----わんこは、ご主人がいなくなると寂しいんですよ。

振り向きざまに、後ろから声が聞こえたような気がしたが、気にしないようにした。
気にしたところでどうにかなるものでもないし、なにより・・・

----かったりぃ。

そう思うのだから。





終わり

暁さんあとがき
初めまして。暁です。
D.C.〜ダ・カーポ〜にチャレンジしてみました!さすがに駄文でしょうか・・・?
なんか、あまり長くできなかったので短編でしょうか。
この続きも考えてますが・・・書くかどうかはその時によります。
では、あとがき終わります。

暁さんから頂いた美春SSです。
ロボットのミハルが消えた後の美春との再会のお話でした。
姿は同じでも中身は全く違う二人。切ない純一の気持ちが伝わって来ますね。



                                           
恋人とわんこと
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