兄さんに好きな人が出来た。

私は兄さんの妹だから・・・

叶わない想いだったけれども

やっぱり、涙が出た・・・

今、私は電車の中に居る

看護師になるために・・・・・・


私は窓の風景を眺めていた。今頃、兄さんはどうしているんだろう。あんなに見送りは要らないからと言ったのに。
駅までついてきて電車が発車して見えなくなるまで(こちらからでは駅が見えなくなるまで)ずっと手を振っていた兄さん。

「向かい側に座ってもいいですか?」
少女が私に話しかけてきた。

「どうぞ・・・・・・って!?」
その少女をみて私は驚いた

「さっ・・・さくらちゃん!?」
紛れもなく、その少女は『芳乃さくら』だった。その頭の上にはうたまるさんもいる。

「うにゃっ!?音夢ちゃん!?」
さくらちゃんも私を見て驚いていた。




私達は向かい合って座っていた。なんだか気まずくって、ずっと互いに黙ったままだった。

「にゃあぁ〜」
窓辺に座っている(置かれている?)うたまるさんは電車の振動に合わせるように首を揺らしていた。

「えっと・・・・・・」
先に口を開いたのはさくらちゃんだった。

「音夢ちゃんはどうして電車に乗っているの」
当然の質問だろう。私は正直に答えた。

「看護師になるために。結局、ぎりぎりまで兄さんに言い出すことが出来なかったけどね。そういえば、さくらちゃんにも言ってなかったっけ?」
「うにゅ〜、初耳だよ」
「そういうさくらちゃんはどうして?」
当然の質問を返してみた。

「ぼくは、一度アメリカに・・・やることが残してきたから」
それは予想外な答えだった。

「えっ!?アメリカに帰るの!?」
「一時帰国だよ。向こうの用事を全部済ませたら初音島に帰る予定だよ。そして、帰ってきたら先生になるんだ」
「へぇ〜、先生になるんだ。どうしてか理由訊いていい?」
「別に良いけど多分音夢ちゃんとおんなじ理由だから二人一緒に言わない?」
私はその提案に賛成した。

「それじゃあ、いくよ」
「いっせーのーで」
「「憧れていたから!」」
答えはみごとにハモった。私達はそれがなんだか可笑しくていつのまにか一緒に笑っていた。




「でも、よかったな・・・」
思わずそう漏らしてしまった。

「うにゅ?なにが?」
お茶を片手にしたさくらちゃんが訊いてきた。

「あのね、今だから言えることなんだけどね・・・私、もし兄さんがさくらちゃんのことが好きになったときは絶対に駄目だって、思ってたの」
「へ〜、そうだったんだ」
さくらちゃんの反応は意外とあっさりしていた。

「それだけ?」
「それだけって、だって、ぼくも音夢ちゃんと同じことを考えてたんだもん。
音夢ちゃんだけは、絶対にだめだって・・・結局ぼく達って似たもの同士だったんだね」
「・・・・・・そうだね」
それは安堵だったかもしれない。

「でも、よかったの?」
「なにが?」
私は長年、疑問に思っていたことを打ち明けることにした。

「ほら、さくらちゃんが引っ越す時にさ、桜の木の下で兄さんと約束を交わしていたでしょ。何であの時兄さんの記憶を魔法で封じたの?」
「えぇっ!なんで知ってるの?」
桜の木のことよりも私が魔法のことを知っていることに驚いている様子だった。
当然なことだった。さくらちゃんは私がそこにいたと気付いていてあんな約束をしたのだから。

「兄さんのことなら何でもわかるもん。兄さんが和菓子を出せることも・・・
私、兄さんがさくらちゃんに和菓子をあげてるところ見たことあって、それっきり悔しくて和菓子が嫌いなフリをしてたんだ」
「・・・・・・そうだったんだ」
「で?後悔とかしてる?」
「もう良いんだ。過ぎたことだし・・・でも、正直なところ残念だったというところもあるけどね」
さくらちゃんはなんだかスッキリしたような表情を見せていた。

電車は駅に到着した。私達は別々の電車に乗り換えることになっていた。
「じゃあ音夢ちゃん、ここでお別れだね」
「うん、さくらちゃんもがんばってね」
「そうだね」
私達は別々のホームへ行こうとした。

「そうだっ!!」
そういって、さくらちゃんは走り戻ってきた。

「ねぇ、音夢ちゃん。二人の目標たてない?」
「看護師や先生になることじゃなくて?」
「そうだよ、恋愛のほうだよ」
「そうだね。もしかしたら同じこと考えてるかも・・・」
「かもね。また『いっせーので』で言う?」
「よ〜し、じゃあ言うわよ」
「いっせ〜」
「の〜でっ!」
「「(兄さん・お兄ちゃん)がくやしがるようないい彼氏を見つけること!!」」
見事にハモった。私達はまた笑った。

「目標も立てたことだし、ぼくはもう行くね」
「うん、頑張ってね、さくらちゃん」
「音夢ちゃんも」
そして、再び私達は別々の方向を歩き出した。
ある程度、歩いたところで

「さくらちゃ〜ん!私、兄さんに駅まで見送ってもらったの〜!」
振り向いて叫んだ。

「えぇぇ!音夢ちゃんだけずるい〜〜〜」
そんな叫びがかえってきた。





終わり

アルフレッド奈園さんあとがき
今回で3作目です。・・・といってもこの作品を書き出す前に何作か書き始めたものがありますが
本作品で思い出したことがあります。それは○HKで昔やってた『パジャマインバナナ(うろ覚え)』
という外国の子供向け番組で主人公の双子(?)のバナナが「もしかして同じこと考えてる?」「多分ね」
という名台詞でそのあと考えていたことをハモるというシーンです。その番組のお約束でした。

余談ですが私と姉はよくハモる



                                           
二人の決意、二人の旅立ち
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