私と姉とそして…
〜エピローグ〜
「ねぇ、兄さん」
久しぶりに入る兄さんの部屋――
兄さんのベッド――
兄さんの匂い――

「なんだ由夢」
「どうして戻って来れたの?」
「う〜ん……俺もよく分からないんだ。強いて分かることと言えば、母さん…かな?」
「母さんって?」
「あぁ、さくらさんのことだ、その辺のことも日が開けたら説明する」
「うん、分かった」
そして私だけの場所――

「ところで…だ。………いつまでそうしているつもりだ?」
「いいでしょ?兄さんだって望んでるんだから」
「まぁ、そうだけどな…」
そう…私は兄さんの部屋に来るなり兄さんにベッタリ。
今まで逢えなかったから…また消えてしまうのではないかという不安からの行動だった。

「今日は此処に泊まるから…いいよね」
上目遣いでこんな事言うんだから、反則だよなぁ〜
答えはもちろんOKなんだけどね…




「いいぞ、好きなだけ泊まっていけ」
「そんな長い間泊まってたらお姉ちゃんに怒られるよ」
「そうだな…説教だけは勘弁…」
と、ここでさっきから話そうと思ってたことを切り出す。

「なぁ由夢?腹減らないか?」
そうなのだ。俺の腹はさっきから鳴りそうで寸前のところで我慢しているのだった。

「…そうだね、帰ってきてからまだ何も食べてないもんね」
そんな俺の気持ちを察したのか、あっさりとOKを出した。

「でも、久しぶりだから兄さんが作ってよね」
「うぐっ!せっかくだから由夢の料理の腕がどれだけ進歩したのか知りたかったのに…」
「それはまた今度♪今日は兄さんから誘ったんだし、今まで兄さんの料理食べたくても食べれなかったんだからね?
だ・か・ら♪そう言う訳だからよろしくね、に・い・さ・ん♪」
そこまで言われると返す言葉がない。それに後半部分に僅かに、僅かだが殺気を感じたぞ?
由夢、おまえは自分の恋人を殺すつもりか?しかも再会したその日に…これじゃあまったくScho――――

「兄さん?さっきから何を失礼なこと考えているんですか?しかも著作権上危ないです。
全く兄さんには雰囲気を楽しもうとかいうのはないのかな……」
頬を少し赤くしながら由夢が言う。しかも、後半は殆ど声になっていなかった。

「すみません…それじゃあ姫の仰せの通り自分は夕飯を作ってきます」
「お願いね〜」
部屋を出て階段を下りるとそんな声が聞こえてきた。




湯気を立ち上らせている料理の数々…
「うわぁ〜美味しそー」
「呉々も言っておくが手抜きだぞ」
とか言ってくるんだからむかつくなぁ…
美味しいから良いんだけどねそんな事、
「それじゃ戴きます」
「どうぞ召し上がれ」
箸を持ち目の前の料理に手をつける。

「ん〜!美味しい!!これどうやって味付けするの?私がやっても絶対こんな美味しくならないよ」
「………」
「…ってなんで鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるの?」
ちょっと拗ねてみる。が、兄さんが驚くのも無理はない。
私が本気で料理の勉強を始めたのは兄さんと付き合う前後のことであり、付き合ってからも何度か作ったりしていたけど、
こうして食事中にまともに料理の話をしたことが皆無だったから…

「悪い、悪い。人も変われば変わるもんだなぁって思ってな」
「酷いよ兄さん…私だってまじめに料理始めたの知ってるくせに…」
「悪かったよ、由夢機嫌直してくれよ」
「つーん」
「由夢…」
あ、兄さんかなり困ってる…これ以上は可哀相だね。

「ホント悪かった。この通り!」
「ふふっ」
「な、何が可笑しいんだよ」
「だって、あはははは…兄さん私が怒ったふりしたら本気にするんだもん。あはははは」
「………」
「さぁ、気を取り直してご飯食べよ」
「…そうだな」
久しぶりに食べた兄さんのご飯はやっぱり美味しかった。




何をするにも全てが久しぶり――
その内の一つ――登校…

「兄さん、早くしないと余裕無くなるよ〜!」
大切な人と一緒に登校――通学路でみんなが見てる中で手を繋いだりして…

「ちょっと兄さん!!聞いてるの!?」
「うわぁ!!ビックリした…急に耳元で大声出すなよ」
「さっきからずっと呼んでるよ、それなのに兄さんずっと無視するから」
「ごめん、じゃあ行くか?」
あちゃぁ、ちょっと妄想の世界に飛びすぎたか…

「うん♪」
芳乃家の玄関を出ると其処には――

「あ、おはようお姉ちゃん」
音姉だ。

「由夢ちゃん!?昨日はどうして帰ってこなかったの?何度も携帯に電話しても留守番電話になるし………って、弟くん!!?」
「ようやく気付いた?由夢以外には見えてないのかと思った。おはよう音姉」
「おおおおお」
「お?」
「弟く〜〜ん!!!!」
がばっ!

「音姉!?」
「ちょっと!!お姉ちゃん!?」
「弟く〜ん、帰ってこれたんだね?偽物じゃないよね?」
「俺は本物だ。それ以外に何があるってんだ?」
俺の胸の中で泣きじゃくる音姉…と真横から恐ろしいほどの視線を俺に浴びせかける由夢。

「………と、音姉?そろそろ離れないと姫が――」
「よ、良かったですね兄さん。お姉ちゃんに抱きつかれてさぞ嬉しいことでしょうね」
目元をピクピクさせた笑みを浮かべて…ってメッチャ怖い…
それを感じ取ったのかするすると俺と距離を置く音姉。

「あの…由夢さん?」
「私先に行きます。後は、仲の良いお二人でごゆっくり…おほほほ」
と言っている顔も笑ってはいるが、怖い。

「弟くん?早く追いかけた方が良いんじゃないかな」
「んじゃあ音姉、また学校で」
「うん♪学校で」
簡単に別れの言葉を交わして、俺は由夢を追いかけた。

「由夢!」
聞こえているくせに先に進んでいく。

「由夢!!」
まだ聞こえない振りをしている。

「由夢!!!」
追いつき無理矢理こっちを向かせる。

その顔は――
笑っていた。
怒りに任せた笑いではなく、心の底からの笑顔――
もちろん分かっていた。
笑っているのに、起こっている振りをして無視し続けていたのが、イラッと来た。

「あれあれ〜?どうしたの?兄さん」
なんかふざけて言ってきやがる。
だから、
「ちょっとお前を追いかけてみたくなったんだよ」
「そっか、兄さんも物好きだね」
「そうだな」
そう、これからもこんな日を送り続けていくのだろう。
冗談を言い合ったり、お互いにちょっとからかってみたり、笑い合って、偶には喧嘩して仲直りして――そんな楽しい日々を…
何時か結婚して、子供が出来て、家族でちょっと遠くまでお出かけしたり…そんな待っているであろう将来(みらい)を想い…

「これからも、よろしくな由夢」
この一言に尽きるだろう。
この言葉に込められた意味を読み取って由夢が、
「うん、ずっと一緒だよ兄さん」





Fin.




作成日:2008年7月31日

後書き

Yu*H.Aさんから頂きましたD.C.U由夢SS「私と姉とそして…」のエピローグです。



                                        
inserted by FC2 system