「兄さん」
「お兄ちゃん!!」
夏休みのある日の昼下がり。
2人が俺の部屋に入ってきたのはほぼ同時だった。


『むっ』
二人の視線が俺の頭上で火花を散らす

 「な、何だよ。さくらだけじゃなく音夢までノックもしないで・・・・・・」

しかし音夢は俺の言葉など完全に無視してさくらを牽制する
「さくらちゃん、いい加減窓から入ってくるのはやめて下さい」
「音夢ちゃんが開けてくれないからでしょ」


む〜っ

一気に部屋に険悪ムードが漂う。
巻き添えを食わないうちに止めておこう。

「ま、まぁ、落ち着けよ2人とも。まずは座ろうぜ?なっ?」
なんとかなだめて2人を座らせる。



バチッバチッと言う音が聞こえそうな視線の激突。

話を切り出しにくいが、切り出さねばなるまい。
このままじゃ夜まで睨みあってそうだし・・・・・・

 「で、さくら。何の用なんだ?」
 「あっ、うん。あのね・・・」

 「お兄ちゃん」
 「兄さん」
同時に音夢も口を開く。

 「ボクと」
 「私と」
これまた声が重なる。

 『遊園地へ行こう』
最後はものの見事にハモった。
そして同時に出されるまんま同じ遊園地のチケット。
それも2人が2枚ずつ出したので計4枚。

 「さくらちゃん、兄さんは私と明後日行くんですよ?」
俺はまだ行くともなんとも言ってないんだが・・・・・・

 「何かおっしゃいましたか兄さん?」
笑顔でデス声を出す音夢。
頼むからその笑顔やめてくれ・・・・・・

 「何言ってんのさ。お兄ちゃんはボクと明後日行くの」
これまた了承した覚えはない。
俺に拒否権はないのだろうか?
・・・ところでなんで明後日なんだ?

む〜っ

 「なぁ・・・」

 「兄さん」
 「お兄ちゃん」
なんで明後日なんだ?と聞こうとしたのを遮られる。

 『どっちと行くか決めて』下さい」

 「い、いや4枚あることだしもう一人誘って4人で行けば・・・・・・」

 「ダメです。私と行こう、兄さん」
 「ボクと行くんだってば」

なんとか場を収めたいがどうすればいいんだ、こりゃ?

 「よし。わかった」

 「私だよね?」
 「ボクだよね?」

 「ジャンケンで決めてくれ」

 「兄さん〜」
 「お兄ちゃん〜」

 「こ、公平な方法じゃないか。どっちかを選ぶなんて俺には出来ないし」
なにより選ばなかった方に後で何されるか分からん。

 「仕方ないですね」
 「一発勝負だよ、音夢ちゃん」

 『最初はグー』

 『ジャンケン、ポン』


 音夢・・・・・・グー
 さくら・・・・・・パー


 「・・・・・・・・・・・・」
 「勝った〜。えへへへ、お兄ちゃんとデート♪」
肩の荷が下りて凝った背中を伸ばそうと音夢たちに背を向け伸びをする。
ふぅ、なんとか場を収めることに成功したか・・・・・・

と、思いきや。

 「おかしいよ、絶対」
音夢の声が部屋中に響く。

 「な、何だ〜?」
慌てて振り返る俺。

 「おかしくなんかないよ」

 「おかしい。石が紙に包まれたぐらいじゃ負けないよ」
なんのこっちゃ?

 「包まれたら何も出来ないから負けなの」
だから何が?

 「紙ぐらい石で簡単に破けるよ。だからパーの勝ち」
ああ〜ジャンケンか・・・・・・って、おい。

 「そんなこと言ったらジャンケンにならないじゃない」
その通り

 「音夢?どうしたんだ一体?何をそんなムキになって・・・・・・」

 「だって、明後日は・・・・・・・・・」

 「明後日は?」

 「・・・・・・ごめんなさい」
音夢はそう言うと俺の部屋を出て、自分の部屋に入っていってしまった。

 「あいつ・・・・・・」
泣いてた。
なんでだか分からないけど、確かに泣いてた。

 「・・・・・・お兄ちゃん」

 「ん?何だ?」

 「明後日、遅れちゃダメだよ?」
さくらもそう言うと窓の向こうへと消えていった。

「ん?・・・・・・・・・って、おい。さくら!どこで待ち合わせするんだ!」
肝心な事を聞き忘れた事に気付き窓から顔を出してさくらに尋ねる。

9時に商店街のバス停で〜」
姿は見えなかったが、さくらの家の庭から確かにそう聞こえた。






音夢視点から進む

さくら視点から進む



かなりしんどくなりそうなSSが始まりました。
前のSSも仕上げずになんで新しいのを書いとんじゃ!と思う人もいるでしょうが、事情があるんです。
人には言えないような事情が。
SSの舞台は遊園地。S.V.と万が一被ると二番煎じになりはしないかというのもありました。
夏休みネタだから今のうちに書きたいと言うのもあります。が、本当の理由はやっぱり言えません。
まぁ、ご自由にご想像ください。

視点交換可能SSとは?
上記にもあるように、2人それぞれの視点で見れるようにするつもりです。
音夢の視点で、さくらの視点で。
片方読んだだけでは分からないこと、2人それぞれの気持ち。
1.5倍楽しめるSS(2倍は無理だと思います)を目指して製作します。
当初は美春も加えて3人の視点で進めようかとも思ったんですが、さすがにそれはきついのでやめました。その代わり、2人に全精力を傾けるつもりでやります。
それでは、いつ完成を見るか分からないSSにご期待ください。



                                       
音夢&さくら視点交換可能SS

 序章 遊園地へGO!
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